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能力に信頼を置かないなどのために、ほとんど実現してこなかったものである。現在、総理府の地方分権推進委員会は、タテの分権のうち、国の関与の縮小・廃止を基軸として改革を進めようとしている。

これに対して第2のヨコの分権とは、地方の側の体制整備であり、いわば水平的な分権化である。タテの分権によって国から地方へ権限が移譲され関与が廃止される場合に、それらを受け止める地方の側が規模や能力を整備すべきだとの主張である。ヨコの分権のうち、とくに地方団体の規模を拡大して分権化の「受け皿を用意するという提案を「受け皿論」と呼ぶ。代表的な受け皿論としては、道州制論や連邦制論のほか、州府制論、州市制論、300市構想、廃県置藩論、都道府県合併論、・・市町村合併論などがある。

受け皿論においては、大きな権限に対しては大きな受け皿が必要だとする効率主義の立場から、地方団体の規模拡大こそが、能力向上などの諸課題をも解決すると見做されてきた。もとより地方の側の体制整備には、規模の拡大のほかにも、組織、運営、性格、住民との関係など多様な課題がある。なお現在、分権化と財政破綻という新たな政策環境の変化を踏まえて、第25次地方制度調査会が自主的な市町村合併の推進策を再検討している。首相を長とする行政改革会議の席上でも、一部の委員から自治体合併論が主張されたと聞く。

第3の中央行政府の再編とは、いわゆる霞が関の改革である。分権化が必要とされる本質的な理由は、国の各省庁の深刻な症例にある。これが80年代の末ころから、千代田区発の分権合唱ブームをまきおこした主因であったといえる。東京1極集中の構造を是正できない国土政策をはじめ、急速な高齢化や国際化,大競争時代への後手をふむ対応、「経済敗戦」とさえいわれたバブル経済前後の不当な金融政策、大震災等における危機管理問題のほか、冒頭に述べた財政破綻など多くの行政分野で、各省庁が機能不全を引き起こしている。

そもそも中央行政府とは何をするところであり、何に対してどこまで責任をもつのかが問われているといえる。この点に関しては現在、行政改革会議が、企画立案機能への純化策を中心にして、各省庁の統廃合や外庁(エージェンシー)化などについて審議している。首都機能の移転問題などもこの脈絡に沿うものであるう。

タテの分権、ヨコの分権、そして中央行政府の再編という3つの論点を集約すると、地方分権改革の基本的な目標を再設定することができる。それは、中央。地方を含む政府システムの総体をつくりかえ再生させることである。

 

?. 地方分権推進委員会の位置

1995(平成7)年夏に地方分権推進法が制定・施行され、これにもとづいて地方分権推進委員会が設置された。以後、同委員会は精力的に審議を重ね、翌96年3月には「中間報告」を、同年末には「第1次勧告―分権型社会の創造」を首相に提出した。さらに今年7月には「第2次勧告」を公表するという。これらの勧告を踏まえて、内閣が「地方分権推進計画」を策定し実施する手筈になっている。

同委員会のスタンスは必ずしも国民にとってわかりやすいものとはいえないが、その審議過程や報告・勧告などを吟味すると、改革の視点にきわだった特徴があることに気付く。それは、すでに述べたヨコの分権、とりわけ受け皿論を慎重に回避してきたことである。バブル経済が崩壊し景気が低迷していた当時を思うならば、改革のコストひとつを考えても、「地方」の側の無用な混乱を避けて、現行の2層制を前提にタテの分権を推進すべきだと判断したことはうなずける。受け皿論こそが、過去半世紀にわたって分権推進を阻害してきた要因だという、苦い認識や反省もあっただろう。

現に、第1次勧告の主旨は「機関委任事務制度の廃止」に絞り込まれている。機関委任事務を廃止して、主に「自治事務」と「法定受託事務」に振り分ける、という。実際に主要な事務の配分例も示されている。要するにこの作業は事務区分の整理であり、事務の再整理にとどまるともいえる。また第2次勧告は、タテの分権のうち、「国庫補助金の整理・合理化」を中心にしたものだと伝えられる。

なるほど、国の事務の処理を自治体の長らに委任して執行を監督する機関委任事務のしくみと、地方歳出の過半にも及ぶ国庫補助・負担金による統制とは、永らく集権制のシンボルとされてきたものである。これら2点を分権推進のターゲットに選ぶこと自体は、決して的外れではな

 

 

 

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