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近代化とは何かといえば、それぞれの担当する持ち場において指定された作業を滞りなくこなしておれば安全が確保されるという体制整備である。「より使い易い、より信頼のおける」方向へ向けての造船技術が果たすべき役割は何か、個々の技術分野における研究開発の要素的部分は従来のものと変わるはずもない。しかし、問題に取組む姿勢という点ではかなり大きな違いがあるように思われる。未知の分野に対する挑戦という意味では変わらなくとも、その結果が日常的判断の場でどのように役立つのかが問われることになるであろう。以下、代表的技術についてこの面からの違いに焦点を当てて概観して見る。

 

安全運航のための造船技術

 

(1) 波浪情報システム

船舶工学の立場から船の安全性を論ずるとき、いつも問題にされる点が不十分な波浪情報である。しかし、気象観測衛星が実用化され、さらに周回軌道衛星からの詳細な波浪データも入手可能になりつつある。何にもまして、船舶との通信が自由になっているため航行中の船舶が周辺の波浪状況を交換し合うだけで、従来に比べはるかに確度の高い情報を入手できる状況になっている。個々の情報は不十分かもしれないがこれらを総合すれば全体としてはかなり十分な情報を得られるはずである。

逆に、波浪情報が不十分であると嘆く前に、どれだけの情報があれはどれだけ船の安全に寄与できるのかという問題点の整理が不十分である。情報提供がいかに進もうとも理論的に十分であるという状況にはならない。ある程度不確実な情報をもとにいかにすればよりよい判断が出来るかという観点からの論理を構築しなければならない。

 

(2) 船体強度の判定

これまでの船体構造学では、設計荷重をいかに合理的に設定するかという観点からの議論が中心的な課題となってきた。今後強化が求められるのは、新造時のみならず船のライフタイムにわたっての合理的船体強度の評価である。これは同時に船体寿命の問題でもある。

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新造時の溶接残留応力は別として、船体強度は一般に時間と共に劣化する性質を持つであろう。劣化の進み方は当然保守にどの程度手をかけたかにより大きく変わる。十分に手をかけた船の劣化が遅いのに対し、手を抜いた場合劣化の進行は極めて早くなる。このような寿命評価を厳密に行うことは極めて難しい。し

 

 

 

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