この他、高速船の分野を見ても多くのコンセプトは海外で開発され最初に建造され、運航実績のあるものが国内にて建造されて来ている。海上輸送の効率化に大きく貢献し、造船ブームをもたらした多くの専用船のオリジナルコンセプトは残念ながら、我が国の技術開発によるものではない。
4.造船技術の周辺への展開
造船の技術を活用して石油掘削リグ、大型クレーン台船、大型浮体構造物等数多くの海洋構造物が建造され稼働している。造船業界が大型海洋構造物に比較的容易に取り組めるのは、船舶の設計/建造で培った技術が活用出来る事が大きい。即ち、浮体構造物の波浪による運動応答、波浪外力推定技術、浮体構造物の強度解析及び建造技術等は、造船の技術をそのまま流用できる。これらの技術を出来るだけ有効活用して、今後造船界の更なる発展を望むには、やはり海洋分野への展開、拡大が必要不可欠であろう。現在、メガフロート技術研究組合に於いて、超大型浮体構造物の研究開発が行われている。これを足がかりに、造船業界のみならず他業界とも共同し、それぞれの特徴的技術を活用する新規的な海洋構造物の創出に取り組むべきである。最近では、空港、港湾関連施設等にも海上空間を利用した大型浮体施設案が考え出されて居り、是非とも各界の力を同一方向に向け、多くの大型浮体施設の実現を期待したい。
5.造船技術の高度情報化
コンピュータハード、ソフト並びに情報通信技術の著しい発展に支えられ、産業と社会の構造を変える様な時代が到来するであろう。物流の世界も同様で、海運、造船業のあり方も変革を迫られるであろう。
新しい情報・通信技術は、新しい時代へ向かう手段、推進力であり、重要な事は、目標「ビジョン」を明確にして、その達成に情報・通信技術を如何に活用するかである。情報化は手段であって目的ではない。新しい情報・通信技術による技術競争は、たとえ、使用する技術に差がなくても、その活用への戦略、戦術によることになるであろう。
日本造船業界は1990年代初頭から、産学官が一体となりシップ・アンド・オーシャン財団のご支援のもとに、造船CIMS(Computer Integrated Manifacturing system for Shipbuilding)プロジェクトを実施してきた。造船CIMSは、欧米の概念の後追いでない、将来への対応をストラテジーとして組み込んだ日本造船業の活力を復活させる為の技術開発を目的とし、世界に先駆けて、造船の生産現場の「船を造る技術」をコンピュータで利用できる知識としてモデル化する技術を確立した。更に、造船技術の高度情報化を推進するためには、造船各社が自らの手で自らのシステムを簡便に構築しうる仕組みをシステムとして構築することが重要であると考えられた。これがGPME(General Product Model Environment)プロジェクトの基本概念となり、造船CIMSで明確にされたプロダクトモデルのデータ構造を体系化し、各造船所固有のデータ構造を容易に追加・修正することを可能にする事により、造船各社が自らの設計・生産手順に対応したシステムを構築する事が出来るシステムを提案している。GPMEが提唱するような高度情報技術が一般的な技術となると、産業全体で共通利用できる情報技術については利用し、個別企業の情報技術については個別に開拓しうる環境を手にすることが出来る。従って、希望するシステムの構築はこれまでに比して容易な事になり、システムの構築技術の競争の時代から、システムの利用技術(戦略)の競争の時代へ変わるであろう。
造船の情報・通信技術に期待されることは
・一つには;船舶建造において究極の追求、即ち、あらゆる情報を駆使してシミュレーションを行い、引合、見積、受注、設計、調達、管理、工作、アフターサービスの全分野で無駄、無理を排除し、建造の自動化、無人化、装置化を推進する。