第4章 水と健康
東京慈恵会医科大学 環境保健医学講座
主任教授 清水 英佑
1 水と衛生・母子保健
-公衆衛生の観点から-
1) 水と生体
地球上の生命を営む個体にとって水の存在なくして生存はできない。ヒトでは体重の60〜70%を水が占めている。このうち40%は細胞内に、20%は組織内に、5%は血液として存在する。生体内における水の役割は、組織を万べんなく潤し、塩類、分泌物(discharge)を溶解し、生体のあらゆる器官の活動に欠くことができない媒体(medium)の役目をしている。さらに食物の消化、栄養の吸収と移動、老廃物(waste material)の排泄、呼吸・循環、発汗・体温調節など生命の機能を維持する上で重要な役割を持つ。
ヒトは生命維持のために1日2.0〜2.5リットルの水を必要とし、飲料水や嗜好飲料、食餌の形で体内に取り込み、尿、発汗、呼気あるいは分泌器官(discharge organ)より排泄され体外へ出す。その他、炊事、洗濯、入浴、清掃、工業用水、消火用、病院、研究等で多量の水が消費されるが、文化の向上に比例して水消費量は増加する。日本の大都市での上水道(service water system)の1人1日の平均給水量(average water consumption)は400〜600リットルとなっている。
2) 水の需要
ヒトと水との歴史をみると、先史時代より河川、湖沼、湧水が水源として利用されて来たが、集落が形成されることにより水源として井戸を掘り地下水(ground water)を利用するようになった。さらに集落が都市に発展するとともに、水の需要はますます増加し、人々にとって水不足が深刻な問題となりここに水道による供給へと発展して来た。
人口の都市集中化現象と広域化は膨大な水の量を必要とすることになり絶対量の不