4 おわりに
以上の考察から、アジアの米輸出国におけるデルタの稲作用水資源開発には制約が多く、稲作の中・長期的発展の見通しが必ずしも明るくないことが、明らかとなった。
タイの場合は、経済発展の過程で避けて通れない、非農業セクターとの水利用の競合という要因が制約条件の一つとなっている。ベトナムの場合は、硫酸塩土壌地帯以外に未利用開墾可能地が極めて限られていることや、デルタにおけるさらなる水資源開発に対する財政的コストの問題などが、制約となっている。また、ミャンマーでは、多くの未利用水資源が存在するにも拘わらず、開発は全く不十分で、国内の需給状況を重視した現在の米政策の下で、政府が今後飛躍的に稲作のために灌漑面積を増加させるとは考えにくい。
ただし、タイやベトナムにおける水資源開発と稲作発展の可能性に比べて、ミャンマーの場合は、財政コストという面からみれば、制約条件がより軽微であると考えられる。その意味で、近い将来、タイやベトナムが米の輸出を減少させざるを得ない状況になった時、ミャンマーにおける稲作発展への期待は大きなものになるだろうし、水資源開発の重要性も飛躍的に高まることであろう。
[後注]
注1) 速水裕次郎「シナリオを読む 2020年からの警鐘 私の診断」日本経済新聞、1997年2月20日朝刊。
注2) Wailes,E.J.,Cramer,G.L.,and Chavez,E.C.,”International Rice Baseline