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第2章 農業開発から見た水資源と食料開発

―アジアの乾燥地帯の灌漑農業と塩害―

日本大学 生物資源科学部

専任講師 隅田 裕明

 

1 はじめに

 

人類が誕生して200万年が経過するが、その大部分の期間を人類は狩猟採取者として過ごしてきた。そして、1万年程前、人間活動を維持するための食糧生産の方法として地球上の環境(気候・土壌)を利用しはじめた。その地域に適した方法により太陽エネルギーを固定し、炭水化物を生産する。これを直接摂取、あるいはこれら炭水化物を利用し、家畜類を飼育することにより、食糧を獲得する方法を学んだ。この結果、人類は狩人から耕作者、飼育者へと大きく転換すると共に莫大な人口を扶養できるようになり、豊かな文明を築き上げた。その豊かさを支えたものは地球の薄皮のようなわずか数10cmの肥沃な表土であったに違いない。農耕人口を扶養するだけの農業生産から余剰食糧が生じ、その食糧により他産業が発展することが文明発展の基本条件であった。換言すれば、土壌肥決度こそが現在の人間活動と文明を支える基盤であることは間違いない。しかし、現在の高度な生産技術と消費活動は豊かな表土を砂漠化と呼ばれる荒廃地に変えつつある。さらに、人間活動により消費された廃棄物が環境悪化を招いている。

農業を唯一の基幹産業とする古代文明は半乾燥地域の肥沃な土地の周辺に発祥し、ほとんどの文明は2000年以内に終焉を迎えている。しかし、チグリス・ユーフラテス川のメソポタミア文明、ナイル川のエジプト文明など河川流域の肥沃な沖積地帯に存在したこの二つの文明は他の古代文明に比べ2000年以上も続いた。さらにエジプト文明はメソポタミア文明よりさらに長く栄えている。では、肥沃な土地と同様な気象条件のもとに成立した古代文明の繁栄期間が、なぜ文明により異なっているのだろうか。文明は余剰食糧の上になり立ち、文化、技術、経済により支えられている。文明の衰退は余剰食糧を生産する農業の衰退にしか他ならない。大河川の沖積地に栄えたメソポタミア、エジプト文明等は平坦な地形と毎年襲う洪水により、肥沃な土壌が上流より運ばれ堆積すると共に、農業用水は大河川からの潅漑に

 

 

 

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