3. 波浪中航行性能
本船は、ロシア沿岸から離れた沖合いの北極海航路における航行を想定して計画・設計が行われている。従って、北極海域においては、夏期であっても氷海域がその主要な航行海域となる。しかしながら、沖合い航路の選定は、すなわちヨーロッパから我が国への直通航行を想定したものであり、この場合、氷海域前後の開水域における航行時間が全航海に占める割合もかなりのものとなろう。このような想定航行海域中、ベーリング海峡以南のベーリング海から北太平洋に至る海域は、低気圧の頻繁な来襲による荒天域として知られる。従って、本船には砕氷航行性能に加え、充分な耐航性も求められる。本研究では、本船の波浪中における基本的性能を把握するため、規則波・向かい波中における水槽実験を行うとともに、これに対応するストリップ法による計算を行った。
3.1 試験手法及び結果
波浪中試験は、運輸省船舶技術研究所の三鷹第二船舶試験水槽(通称 400 m 水槽)において実施した。本水槽では、水槽端に設置されたフラップ型の造波装置により、波長 15 m、波高 60 cm までの造波が可能である。消波機構としては、トリミングタンク側にビーチ型の消波機構を備えるとともに、水槽側壁に設置された昇降可能な消波装置を用いることにより、実験後の水面の静穏化の促進を図ることができる。
実験装置の概要を図 3.1 に示す。模型船は、2台のガイド装置を介して計測台車に取り付けられる。ガイド装置は計測台車内に設置されたガイドレール上を前後に運動が可能であり、従って模型船の surging 運動は自由である。また、この他の模型船の運動としては、pitching、rolling 及び heaving が自由であるが、yawing 及び swaying 方向は拘束される。これらの運動は、両ガイド装置に設置されたポテンショメーターにより計測される。なお、計測前後の計測台車の加・減速時には、鋼製ワイヤーにより模型船を計測台車にクランプする。プロペラのスラスト及びトルクの計測はプロペラシャフトとプロペラ駆動モーターの中間に設置した自航動力計により計測した。また、模型船の船首から約3m 前方にサーボ型の波高計を取り付けて波高の計測を行った。計測信号は計測台車上の DAT 型データレコーダーに記録するとともに、コンピューターによる一次解析を行った。また、試験にあたっては模型船前面より VTR カメラにより船首部のスプレーの発生状況を撮影した。
波浪中における実験結果の評価の基本とするために、波浪中の実験の前後に平水中での自航試験を実施した。実験装置その他については波浪中試験と同一のものを用いた。計測にあたっては、波浪中試験同様、摩擦抵抗成分の補正を行わず、model point における自航状態における計測とした。平水中における実験条件及び計測結果を表 3.2 に示す。実験は、波浪中における試験と同様の5種類の模型船速度ついて行い、最低速の条件については2回の計測を繰り返して、S-1 から S-6 までの6回の計測を行った。
波浪中においても平水中の試験と同様、model point による自航試験を行った。試験の手法は次のとおりである。
? 造波を開始し、水槽内の適当な部分まで波群が到達した時点で、模型船をクランプした状態で計測台車の走行を開始する。
? 模型船が定常な波浪中に入った段階でクランプを緩め模型船を解放する。