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2. 氷丘脈突破性能

 

実海域における海氷は様々な形態で存在するが、氷丘脈は、船舶の航行という観点からは最大の障害の一つとなる。氷丘脈通過の際には船速は低下し、時には停船にいたる。このような場合には繰船者は、氷丘脈から適当な距離を後進し開水中で前進速度を得た上で氷丘脈に突入して前方への進出を図る、いわゆるラミングあるいはチャージングと呼ばれる航法を採ることを余儀なくされる。大規模な氷丘脈の場合は、一度のラミングでは突破できず、これを繰り返すこともしばしばである。ラミングによる氷丘脈の突破は、航行時間に大幅なロスを生じるばかりではなく、後進時における氷片との干渉による推進器の損傷、氷から受ける強大な荷重による船体の損傷等の発生する可能性も高く、船舶の安全性という観点からも重大な問題となる航法である。氷丘脈の突破性能は、氷海船舶の性能を論じる上で重要な特性の一つである。

 

2.1 試験手法及び結果

本研究では氷海水槽に作成した模型氷丘脈中における抵抗試験により本船の氷丘脈突破性能の評価を行った。氷丘脈氷丘脈中抵抗試験は、運輸省船舶技術研究所の氷海船舶試験水槽において実施した。本水槽は、長さ 35 m、幅 6 m、水深 1.8 m の試験水槽を冷凍庫内に封設した実験施設である。冷凍庫内の室温は併設された冷凍施設により - 35 ℃ までの温度に冷却が可能であり、これにより水槽水面に氷板を成長させる。水槽水はプロピレングリコールの 0.6 % 水溶液である。氷板は、製氷開始時に氷核散布(wet-seeding)を行った後に天井クーラーによる自然対流方式で水面が冷却されることにより成長する。室温が -20 ℃ の場合の成長速度は1時間あたり 2.5 mm 程度であり、氷板の結晶構造は柱状構造となる。

実験では、水槽内に成作した模型氷丘脈中を一定速度で模型船を曳航し、その時の抵抗、船体運動等を計測した。実験装置の概要を図 2.1 に示す。模型船は、抵抗ロッド及びガイドロッドを介して計測台車に取り付けられる。模型の運動は、pitching、rolling 及び heaving が自由であるが、surging、yawing 及び swaying 方向は拘束される。模型船が受ける抵抗は、抵抗ロッドに取り付けられた容量 2 kN のロードセルにより計測される。また模型船の運動は、抵抗ロッド及びガイドロッドに設置されたポテンショメーターにより計測される。計測信号は計測台車上の DAT 型データレコーダーに記録するとともに、コンピューターによる一次解析を行った。

今回の実験では積層法による模型氷丘脈を作成した。この模型氷丘脈は幅の異なる氷板を母氷板から切り出し、これらを幅の順番に母氷板下面に積層させる手法により形成された氷丘脈である。構成氷片の幅、相対位置等を調整することにより、任意の形状の氷丘脈を作成することができる。本手法による氷丘脈作成の手順を図 2.2 に示す。図は氷海水槽内の氷板を平面図的に示したものである。氷板内に図のようにカットを入れ、幅の異なる氷片を切り出す。これらの氷片について、氷片 1 を氷片 2 の下面に挿入、これをさらに氷片 3 の下に挿入、といった作業を繰り返し、最終的に全体を母氷板の下面、破線で囲われた位置に挿入する。この後、中央部に氷片 10 を積み上げ、母氷板を移動させて氷片切り出しによりできた開水部を閉じることにより、逆ピラミッド型の断面形状を有する模型氷

 

 

 

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