第5章 NSRにおける氷況の数値予測システムの研究
北極海航路の大きな特徴の1つは、航路上の氷の存在である。海氷は風・潮流など周辺の自然条件によって、時々刻々その分布域を変える。海氷の移動速度が0.5m/secを越えるのも珍しくなく、1日の移動距離が50kmを越える場合もある。実際に氷海域を航行する船舶にとって、これから航行しようとする海域の氷の分布及びその移動に関する正確なデータは、航路の選択及び安全航行に係わる最も重要な情報である。
この研究では、北極海航路の実船航海の際、衛星計測による海氷データを利用する海氷移動・分布の数値予測システムを用い、実時間での衛星データの収得、処理及び氷況の予測を行い、その結果を実船航海に利用する。また、将来の北極海航路の本格的啓開に向けての海氷移動・分布数値予測システムの有用性の確認及び実海域での実船航行に利用するための実用技術を確立することを目的とする。すなわち、システム全体を船内に搭載し、船上で取得した衛星氷況データを基に数日程度の氷況予測を行えるような、コンパクトな航行支援システムを構築し、実船航海試験もしくは地上での模擬試験によりその有効性を確認する。
本研究は、平成9,10年度の2ヶ年で完了する様に計画されている。平成9年度の研究では、移動する船舶上で利用可能な、衛星計測による海氷データを利用する海氷移動・分布予測プログラムの開発、過去の海氷データと気象データを用いたシステムの検証・評価、地上局から送られてくる海氷データと気象データ、数値予測計算プログラムで得られた氷況情報の可視化方法に関する検討を行った。
5.1 船内搭載氷況予測システムの概要
このシステムは、地上から送られてくる海氷データと気象データを用い、船舶の位置及び航行状況を基に航行予定航路上の海氷移動及び分布変動の予測を船上で行うシステムである。
システムは、地上から送られてくる海氷及び気象データの受信、氷況予測の数値計算プログラムの入力データとして利用するためのデータ形式の変換、氷況予測のための海氷移動及び分布の数値シミュレーション、受信及び計算プログラムから得られた氷況情報を可視化するツールで構成される。船内搭載氷況予測システムは、地上の広範囲氷況情報システムと密接な関係を持つシステムで、その位置付けを図1に示す。