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(3) 氷丘脈抵抗

実海域における海氷は様々な形態で存在するが、氷丘脈は、船舶の航行という観点からは最大の障害の一つとなる。氷丘脈通過の際には船速は低下し、時には停船にいたる。このような場合には繰船者は、氷丘脈から適当な距離を後進し開水中で前進速度を得た上で氷丘脈に突入して前方への進出を図る、いわゆるラミングあるいはチャージングと呼ばれる航法を採ることを余儀なくされる。大規模な氷丘脈の場合は、一度のラミングでは突破できず、これを繰り返すこともしばしばである。ラミングによる氷丘脈の突破は、航行時間に大幅なロスを生じるばかりではなく、後進時における氷片との干渉による推進器の損傷、氷から受ける強大な荷重による船体の損傷等の発生する可能性も高く、船舶の安全性という観点からも重大な問題となる航法である。

本研究では、本船の氷丘脈中における航行特性を評価するために、氷海水槽における抵抗試験試験を行った。抵抗試験では模型船は一定の船速で曳航される。これに対し、氷丘脈を通過する際の実船の運動は、上述のように船速が低下し、時には停船に至る場合もある。従って、氷丘脈中の抵抗試験により得られた抵抗値に基づく単純な議論は、氷丘脈中における性能の評価には適当ではない。このため、氷丘脈中におけるエネルギー消費という観点から試験結果を解析した。抵抗試験において、時間t=0からt=Tまでに模型船が消費するエネルギーE(t)は、抵抗R(t)を用いて次のように計算される。

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ここに、Vは模型船速度である。図 3.3.10 に模型船のエネルギー消費の時間変化の例を示す。図3.3.10の中央部のエネルギー消費の急激な立ち上がりが氷丘脈中における抵抗増加によるものであり、氷丘脈中でのエネルギー消費量ERが図に示されたように計算される。また、氷丘脈による消費エネルギーの立ち上がりの前後におけるエネルギー増加率の比較的緩やかな部分は平坦氷中の抵抗によるものである。図 3.3.11 に氷丘脈の断面積と消費エネルギーとの関係を示す。消費エネルギーは氷丘脈のサイズの増大に伴って増大し、また、船速が高い方が消費エネルギーも高い。

前述のように、氷丘脈中の航行においては抵抗の増大による停船の後、ラミングを繰り返して通過を図る場合がある。このような状態において、氷丘脈を通過するために必要なラミングの回数は、氷丘脈の突破性能を評価する上での一つの指標となろう。ここで、それぞれのラミング時に船体が有する運動エネルギーの総和が氷丘脈を通過するために必要なエネルギーを上回ったときに氷丘脈の突破が完了すると考えると、突入時の速度Vでラミングを繰り返して氷丘脈を突破するために必要な理論的なラミング回数Nは次のように与えられる。

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