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第7章 まとめ

 

7.1 包括的着氷防止対策

着氷に関する問題は、これまでに多くの研究家によって研究され、それに係わる因子間の相関はかなり明らかになってきた。

要約すれば、着氷とは海水のしぶきが船体構造物に付着し、船舶が位置する低温環境(気温)によって潜熱が奪われ凍着する現象であり、海水のしぶきは荒天下の海を航行する船舶によって、波浪階級・相対風向・相対風速・船速・船体構造を原因として引き起こされる。

また、着氷量は船内甲板上に入るしぶき量と気温条件によって左右される。気温が高ければ、船内構造物に付着したしぶきは水滴となって落下し、船外に排出されるが、気温が低ければ、結氷して着氷して行く。波しぶきがかかりやすい船体の前部甲板付近を中心として、甲板上の機器類にも激しい着氷が見舞うことになる。特に漁船はしぶきを発生しやすい船型をしており、一層その傾向が顕著となる。

付着した「波しぶき」は、外界の気温に大きく左右されるが、付着媒体の温度にも左右される。パイプに温水を通して着氷を防ごうとする防止策は、付着媒体の温度を高めているが、外界の低温環境に熱を奪われて着氷防止効果が低くなり、着氷しだすと成長が始まり、ほとんど効果がなくなるものと思われる。風向・風速・船速の因子によって、着氷媒体及びしぶきの潜熱が奪われるから、これらの因子はしぶきの発生に関わると同時に、着氷の因子となりうる。

着氷による危険が叫ばれ始めて、既に40年近い月日がたつものの、その間考案されたさまざまな防止策或いは軽減策は、船舶安全法の目的の一つである堪航性の確保を主体とした対策であったが、残念なことにいずれも経済的に採算が合わなかったり、実効性に乏しいものであったので、結局のところ付着した氷を人力で叩いて落とすという、もっとも原始的な方法以外決め手がないのが現状となっている。

しかしながら、人力に頼る以上は作業時間の長さと労働力に多数の手が必要となるのに対し、省人化の進む近代船では万一着氷に襲われても、人手不足なるが故に最悪の事態に追い込まれることも予測される。

このような状況に鑑み一日も早い、対策案の確立が望まれるが、当面の着氷の防止策としては次の事項に配慮することが効果的と考える。

?着氷の危険性のある気象条件下では着氷海域へ入らないこと。

?着氷の可能性を感じた時は、一刻も早くその海域を離脱すること。

?波しぶきの発生を極力押さえる操船をすること。

?船体構造の各部に着氷防止対策を施すこと。

?万一、着氷したら出来るだけ早い段階で除去すること。

 

 

 

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