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たところ、生物による CO2 固定能が上昇し CO2 濃度が減少することが示され注目を浴びた報告もある。さらに、窒素固定(N2 固定)の藍藻の存在による固定能力の増大や、珪藻のための Si (珪素)の欠乏も律速要因になりうることが報告されている。そこでは、珪藻が少なく、鞭毛藻が多い特徴が見られている。元来、沿岸域には珪酸が多いはずであるが、河川のダムによる土砂流入の減少に伴い、沿岸域を含めた流域の生態系全体が変わってきたことを示している。環境庁も N、P ばかりを問題にしており、Si は手落ちになっていたのである。

 

生態系の構造も物質循環も、科学的知見は十分ではない。海洋にはどのような生物がどのくらい存在するのかという問いに対して解は得られていないし、物質循環に関する様々な数値モデルも再現できない部分が多く存在しているのが現状である。(1)〜(6) の重要課題群(表4-5)の中で、海洋生態系の構造や物質循環に関する課題は、他の課題と趣を異にしているところがある。海洋生態系の構造や物質循環の解明は、研究目標がある訳でなく、対策・効果を考える課題の基盤となる研究領域である(図5-6)。

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環境という観点、工学と言う観点からみると、問題とされているものを計測、評価できないのが問題となる。継続的な定点観測データは全ての基本であり、長期的な研究支援体制の確立が求められている。20年前のアメリカの観測データと今のデータを比較することで有効な成果を得られた例もあり、離れた時間のデータ比較の重要性に疑いはない。

定点観測の必要性・有効性に目を向け、広域かつ継続的に観測を続ける必要がある。観測データを基に、生化学的、生理学的な実験による裏付け、数値計算モデルへと発展させることが可能となる。今後、定点観測の支援体制を確立し、組織的に観測データを蓄積していくことが求められている。

 

 

 

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