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(3) 海洋の物質循環と生態系

昨年には気候変動枠組み条約の第3回締約国会議が開かれ、CO2による気候変動が世界的な問題として認識されるようになっている。しかし、地球における炭素の循環の理解は必ずしも十分とは言えない。地球上の二酸化炭素放出量と吸収量の推定値には大きな差があり、ミッシングシンクと呼ばれている。今後の地球規模の気候変動の研究と共に、炭素循環の研究の必要性が高く認識されている。

まず、地球規模で物質循環を考えるのが「大循環*」であり、通常に使われている「物質循環」とは別の次元である。地球規模で全体像を展望すると、温暖化によって水自体の循環が止まる恐れがあり、その場合、水の流れに乗って動く物質の循環も止まることになる。大循環は物理過程なので、研究領域としても海洋物理の範疇になる。大循環に乗った物質の流れは、フロンガス(天然には存在しない人工物質であることを利用する)の分布測定を利用する。

ミッシングシンクとされている課題も、今までと異なった手法で測定、評価すると、海の吸収量が 1.5 倍であったと評価されるデータが得られてきており、推定値の誤差は縮小してきたと考えられる。しかし、海の現状について分からないところは多く、どこへ CO2 が流れて、どこから、いつごろ出るかは明らかでない。影響のモデル計算は行われているが、数値モデルには再現できていないところが多く存在する。

*)大循環;極域で海の水か凍る際に、塩分濃度の大きい海水が形成される。塩分濃度の大きな水は重いので沈降し、地球規模の海水の循環を生じる。気候温暖化によって極域の海が凍らなくなれば、大循環が止まると懸念されている。

 

これに対して、海洋生物を中心に物質循環を研究する場合は、もう少し小さな眼で、生物活動、生態系の中で物質循環を研究する。しかし、それらが絡まり合っているのは間違ない。

生物に CO2 を与えて影響を見る実験も行われている。C は、N や P とは役割が大きく異なるので、ある部分は同じ、ある部分は違うと見定めることが重要と考えられる。海洋における C の動き(図5-5)は

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基本的に C の濃度に依存しない。それは、CO2 は既に過剰にあり、律速ではないためである。このため、CO2 濃度が上昇しても、植物の固定能力は上昇しない。

また、ある海域では、N も P も十分量存在するが植物が多くない場所もあった。その際には、鉄を加え

 

 

 

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