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5.3 生態系への影響、生態系・生物の多様性保全、海洋における物質循環

 

(1) 生態系構造に関する基礎的研究の重要性

人間生活による環境汚染物質が海洋に流入した場合、海洋生態系への負荷を評価し、生物・生態系が被る影響を解明するのは容易なことではない。海洋微生物の生活環境や動態が科学的に解明しておらず、今後、海洋生物学、生物海洋学の知見を蓄積していく必要がある。生態系を調べることは、海洋環境汚染を検討するにも基本となり、世界的に基礎研究の一層の促進を計っていくことが強く求められている。

 

(2) 生態系のモニタリング

環境汚染物質のモニタリングは、海上保安庁、水産庁、気象庁、環境庁などで行われており、中でも海上保安庁水路部では20数年継続したモニタリングがなされている。長期間のモニタリング結果は、油汚染事故などの突発的な環境破壊問題に対して、事故前のバックグラウンド値との比較に欠かせない情報であり、環境修復を検討する基礎資料として極めて意義が大きい。

しかしながら、行政機関の環境モニタリングは、環境基準、水質基準、排出基準など法的な濃度基準が設定されている汚染物質について、基準に対して現状がどのレベルにあるかをモニターし、基準への適合を監視することを目的に行われている。このため、有害物質に対して行政のモニタリングが継続的に行われるためには、環境汚染物質であることが明らかにされ、モニタリング手法が確立され、因果関係が解明され、生物・生態系への影響が現れる閾値を基に環境基準が設定される必要がある。

地球環境のレベルにおいても、地域の局所的な汚染についても、既存のモニタリング技術、モニタリング手法だけで複雑な汚染実態を把握することは極めて困難なのが実態であり、環境を汚染している様々な有害物質の生物・生態系に対する総合的な影響を把握するモニタリング手法の開発および推進が求められている。

公害問題では、特定の企業や工場が排出する汚染物質が原因であり、加害者と被害者、および汚染原因物質を明確化することが可能であった。しかし、環境問題においては、N、P、CO2、あるいは石鹸・洗剤などのように一般生活者の日常生活の中からの排出が問題となる。多くは大気、海水中、および底土中に蓄積し、やがて大きな問題を引き起こすことが懸念される。従って、生物群集の”場”がどのような影響を受けているのかを監視・観測し、修復にかかるコスト、年月を明確化するには手法の研究開発が求められている。広域かつ長期にわたる環境圧測定を基にバックグラウンドとの差異をモニタリングする必要があり、先ずはバックグラウンド値を測定できる手法の検討が先決となろう。

汚染有害物質は食物連鎖を通じて生物・生態系に影響を及ぼすと考えられる。海水中の有害物質濃度が低くても、食物連鎖の過程で蓄積・濃縮される可能性は高い。このため、生物・生態系のモニタリングは、食物連鎖の多段階について進める必要がある。生物・生態系への環境影響を早期に知るための食物連鎖下層のバイオモニタリングと、生物濃縮を考えた高次の栄養状態にある捕食性動物のバイオモニタリングは、いずれも欠かすことはできないのである。

 

 

 

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