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2.2 海洋汚染に関する問題・課題と現状の対策の概要

 

水圏では都市内河川、湖沼・内海・内湾等の閉鎖性水域の水質汚濁(重金属・有害化学物質等、有機汚濁)や、有機塩素系化合物(トリクロロエチレン等)による地下水汚染、化学物質・重金属・原油等・浮遊プラスチック等による海洋汚染がある(図 2-2)。

表2-1に海洋で検出される人為起源の物質を示した。これらの濃度が有害なレベルにあるかどうか簡単に評価できないが、多様化しながら広域に広がっていると考えられる。化学物質では各種の残留性農薬や PCB、ダイオキシン等の有機塩素系物質を中心とした難分解性汚染物質による汚染が問題である。PCB や DDT の汚染は、これらの物質の放出地域である工業地域の近海のみに限定されない(図 2-3)。

また、食物連鎖を通じた生物濃縮も問題であり、海に廃棄された化学物質・重金属が、海水・底質の他、魚介類等の海洋生物から検出されている。人間の放出した化学物質は海洋中の小魚からやがて大型の魚へと濃縮蓄積される。この問題は、生態系への影響のみならず、人間自身の食糧問題としても重要である。図 2-4 に PCBの循環について示しているが、始め大気や海水中に放出される量は、わずか 0.00001 ppm である。しかし、その濃度は、動植物の大きさにほぼ比例して高くなり、動物プランクトンでは 0.01 ppm であったものが、魚では最高 10 ppm まで跳ね上がり、海洋性哺乳類動物であるイルカに至っては、40 ppm に達する。PCB はもちろん、農作物や魚類を摂取する人間からも検出される。

船底や養殖生け簀への貝等の付着を防止する有機スズ化合物による汚染もある(使用は禁止されているが、閉鎖水域や貝類から有機スズ化合物検出され、貝類の生殖障害が起きている。図 2-5)。

油による汚染は原油の他に船から排出されるバラスト水やビルジがあり、オイルボールなどとなって漂う。プラスチック自身の有害性は報告されていないが、鳥類・ウミガメ等の海洋生物が飲み込んで障害を起こす、漂流するゴミに絡み付かれて自由を失う、漁具・漁網・合成樹脂の釣り糸が鳥類に絡まり死に至る等による海洋汚染がある。

ここで注意すべきは、大気中に放出された化学物質もやがて雨とともに地上に降り注ぎ、また陸上で使用された化学物質や天然物質も河川を通じて海(海水、底質、生物)に蓄積されるという点である。さらにこれらの化学物質は大気や海洋を通して国境を越えることもある(越境性環境汚染)。排水基準に見られるように、濃度規制から総量規制に移行しても、長い時間をかけて海に蓄積されると、その物質の性分解性が低い場合はやがて生態系のバランスの変化等の問題が顕在化すると考えられ、広大ではあるものの人間の活動に伴い、海の汚染が世界的に確認されるに至っている。また、天然物質でも過剰になれば富栄養化によって赤潮や青潮の原因になっている。

海洋に、各種物質(人工、天然)が流入しても海洋では急激な変動がおこらず、環境の変化がゆっくりと進むため、問題が顕在化するまでに長期間を要し、顕在化した時にはすでに手遅れという事態になると考えられる(修復のためには長期間を要する)。現在は、水質に関するモニタリングや対策が中心であり、この視点からは海洋汚染の実態はつかみにくい。

海洋汚染は最終的には、食物連鎖網の頂点にいる人類に影響を及ぼすと考えられる。人類は地球が長期間

 

 

 

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