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3.6.6 各種養殖方式と循環式陸上養殖システムのコスト概算

3.4 章の3-4-6表でウナギについてのコスト計算を行っているが、海外では成功している循環式陸上養殖法をそのまま日本に持ち込んでも、うまくいかないとの問題がある。その最大原因は初期投資の大きさにあって、養殖のための直接原価は相当安くできるが、それ以上に減価償却費が上乗せになってしまうところにありそうである。初期投資には土地から建物、さらにシステムを構成する機器類が含まれるが、日本の場合は特に土地代や建物の空調設備費とか床のセメント工事費等が高い。

陸上養殖を産業化するためにはこれらの初期投資額を圧縮し、最終的な生産コストを海面養殖と同等かあるいはそれ以下にもっていく必要があろう。ここでは、先に海面養殖や海外での陸上養殖における初期投資例を紹介し、日本においてハマチまたはマダイの陸上養殖を始める場合の初期投資額を試算する。さらに後半で、養成に関わるランニングコストの試算例を示し、日本における海面養殖と陸上養殖の差異分析を行う。海外の陸上養殖の初期投資例も知り得た範囲で紹介するが、ランニングコストについては、対象魚種、環境、場所あるいは経営形態によって大きく異なるので今回は省略した。

(1)海面養殖を開始する場合に必要な初期投資例

わが国の海域で海面養殖をスタートする場合にも相当の投資が必要である。以下、ハマチとヒラメ養殖業者の例を上げる。

イ)ハマチを中心に年間4,000トンの生産量を上げる九州の某生産業者は、国内では当然大生産者に位置される。生簀は8m四方のものと20m四方のものがあるが、全部で510基を稼動させている。単純計算では1生簀当り7.8トンの生産量ということになる。これに対する初期投資額は生簀だけでも約9億円とのことで、これも単純計算すると1生簀当り176万円、100トン生産するためには2,250万円の投資となる。

ロ)また、愛媛県の養殖業者である池上氏が月刊「養殖」に寄稿している情報によると、年間30トンのヒラメを生産するために必要な施設費は、1,235万円とのことである。施設費には、養殖筏、フロート、網、錨、ロープ等を含むが運営に必要な船とかトラック、さらに陸上施設は含んでいない。耐用年数を考慮に入れた減価償却費は年間241万円となり、これだけで約80円/?の減価償却費負担となっている。

ハ)さらに、長崎県でハマチとマダイを養殖している業者の話をもとにハマチを100トン生産する場合の初期投資額を推定する。ハマチの場合、10m×10m×7mサイズの生簀に3kgサイズの親魚なら3,000尾程度、すなわち密度1%程度が目安になっているとのことである。

施設・設備 生簀10基(10m又は20m四方)

金網・枠 10基@100万円、耐用3年 1,000万円

化繊網 1生簀につき3種類@30万円、耐用15年 900万円

筏・フロート等 10基@40万円 400万円

動力船 最低1隻(12トンクラス),中古 2,000万円

トラック 最低1台(5〜6トン型) 500万円

陸上処理建物(餌製造、水揚げ用) 最低限として 1,000万円

 

 

 

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