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条約の第1条において、締結国は「必然的に重大な損害をもたらす結果が予測される海難事故又はそのような海難に伴う行為に基づく油による海洋汚染又は海洋汚染の脅威から自国の海岸線又は関連の経済的権益に対する切迫した危険を防止したり、緩和したり除去するために必要に応じて公海上においてこれらの措置を講ずることができる」と定めている。

条約は、公海に対する地形的要件の適用を規定している。しかし条約の採択後に専管経済水域の構想が制定されたので、条約は専管経済水域も含むものと解釈しなければならない。

条約が適用される前に、幾つかの条件を満たさなければならない。

* 海難: 海難とは第?条、第1項に基づき、「船舶の衝突、座礁又はその他の航行中の事故、あるいは船内若しくは船外のその他の事故で、船舶又は積荷に対し物質的な損害又は物質的な損害の切迫した脅威をもたらすもの」を意味する。一般に災害は乗組員にとって過酷なもので、習熟することが困難なものと考えなければならない。

* 自国の海岸線又は関連の経済的権益に対する危険: 沿岸国は、事故が自国の海岸線に対し脅威となる場合にのみ介入することができる。「関連の経済的権益」とは第?条、第4項に基づき、例えば重要な漁場、観光資源又は野生動物の保護地区を意味する。多分、石油掘削装置等の洋上施設も含まれるであろう。

* 重大な損害をもたらす結果の予測: これは油流出事故が海岸線又は関連の経済的権益にどんな種類の結果をもたらすかということと無関係ではない。結果は重大なものでなければならない。しかし、この評価は最悪の状態を想定して行うことができる。沿岸国が現実の結果の不確実性のために介入を差し控えなければならないという意見は正当化できない。

* 必然的に予測される…重大で切迫した危険 : 有害な結果を引き起こす危険は「重大で切迫」したものでなければならず、災害とその予測結果の間には明確な因果関係がなければならない。

これらの条件以外に、第?条には沿岸国が対策措置を講ずる前に従うべき詳細な手順が定められている。例えば沿岸国は原則として下記事項を実施しなければならない。

− 海難事故の影響を受けるその他の国、特に旗国等と協議する。

− 提案された対策措置によって影響を受けることが必然的に予測される、利害関係のある全ての者及び企業に対して遅滞なくその対策措置を通告する。

− 国際海事機関が保有するリストから選ばれた独立の専門家と協議する。

実施される措置については、「実損又は脅威となる損害に見合ったもの」でなければならない(第?条)。

評価

総合的な結論としては、沿岸国が公海上にある外国籍の船舶に対して介入することができる前に満たさなければならない厳しい条件があるということである。しかし海洋の流出油の処理のために沿岸国が実施する努力に対しては制限はない。流出油の処理作業の費用の払い戻し及び損害に対する経済的な補償の可能性についての規定は、幾つかの条約及びその関連議定書、特に1969年の国際油濁民事責任条約(CLC)及び1971年の国際油濁基金の設立に関する国際条約(基金条約)に定められている。これらの条約に基づく補償が十分なものであるか否かの議論は本論文の範囲外のものである。

 

b. 領海水域

「領海水域」の用語は領海及び内海水域と理解されている。UNCLOSの第2条において「沿岸国の管轄権は

 

 

 

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