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大海難の発生と、それによる甚大な海洋汚染の蓋然性は、今以上に高まるものと考えざるを得ない。

 

3. 防除体制

(1) 我が国では「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」が制定されており、海洋環境等についての総合的な施策が講じられている。

(2) 同法律においては、油防除体制の整備を図るため、

・ 海上保安庁及び海上災害防止センターによる防除資機材の配備

・ 地域ごとの官民連携による防除機関としての協議会の設置

・ 油防除の原則として原因者が執るべき措置

・ 緊急性が高い場合の海上保安庁による防除措置の実施と、海上災害防止センターへの防除指示

・ 地方自治体固有の任務としての、海浜に漂着した油の防除措置

などを規定している。

(3) 防除資機材の配備については〔図15〕、〔図16〕に見られるように、前述の汚染発生の地域分布の状況を反映して、太平洋側の湾域、内海への比重が高いものとなっている。

 

4. 教訓

洋上における流出油回収・防除活動を指揮する過程で遭遇した困難、換言すれば、将来にはこうあって欲しいと願望した、幾つかの事項を次に掲げる。

(1) 海難船舶とその積荷に関する正確で即時の情報

外洋荒天時における油性の経時変化を考えると、出来るかぎり早期のうちに可能な対応策を決定することが必要で、そのためには関連情報の入手が不可欠である。

今回は救助された船員から沈没時の積載状況を聴取でき、また、船主側からも比較的早い段階で図面等を入手できたが、予想される沿岸被害国の油防除体制の早期確立に役立つ情報が旗国、船主、運航者の義務として提供される国際的制度が望まれる。

(2) 漂流追跡・予測手法の確立

船体折損時の流出油は広範囲に拡散漂流し始めることになるが、その全体状況を事故直後から常時監視し続けることは実際上不可能であった。

今後は人工衛星利用等による浮流油情報の入手、より精度の高い漂流予測手法の確立と、被害国に対する非営利べースの油漂流監視・予測の援助スキームが望まれる。

(3) 外洋で使用できる資機材の開発

〔図17〕はシップ・アンド・オーシャン財団によって調査された世界における回収装置の開発状況であるが、世界には有義波高2m以上で使用できる回収船・回収装置は未だ開発実用化されていない。

海難後数日内に広範囲に分散漂流した今回の事例が教えるように、搭載型油回収装置の仕様を世界共通に何種類か標準ユニット化し、巡視船のみならず、艦艇、大型漁船、オーシャンタグなどで連携して使用することによって、防除するシステムの開発が望まれる。

(4) 沿岸海域環境防災情報の整備

広範囲に及ぶ洋上の浮流油に対し、限られた数の回収船等をどの海域に活動させるかは、沿岸の自然的、社会的状況によって大きく左右される。このため今後は油処理剤使用の可否を含めた白治体、漁業者との環境保全マップの作成が急がれる。

また、国外及びボランタリーべースを含めた災害時支援情報の一元化が望まれるところである。この意味で現在進められているNOWPAP(北西太平洋地域海行動計画)に期待するところは大きい。〔図18〕

 

 

 

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