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一路線一路線でこの収入と費用の支出を合わせるというわけではないということです。中には、非常に利益がたくさん上がる路線もありますし、あるいは利益が上がらず、建設費が非常に高かった路線、そういういろいろな路線があります。そういうのをまとめてならして、全体でこの計算を合わせようということです。

表-3にも書いておきましたが、3つのメリットがあると考えています。1つは、そもそも高速道路ネットワークが一体のものとなっているということです。実際、全国つながって、これはあたかも1本の道路のような形になっており、1つ1つを分けて収支を計算するのはあまり合理的ではないということがあります。路線ごとに補完する、代替するケースがふえてきています。例えば、東京の周辺が混むので、関西から東北に行くときに、日本海側のルートを通ろうということが最近できるようになりました。もしばらばらに料金が設定され、高い路線、安い路線、いろいろなものができてしまうとそれは利用者にとって不便ですし、日本全体の国民経済的な意味での社会資本の有効活用という点からも問題となります。

2番目として、黒字路線から赤字路線に資金の援助をする、内部的に補助をし合うということですが、例えば、東名高速道路というのは一番もうかる道路で、収支率が14です。100円の収入を得るため14円しかかかりません。それに対して、最近開通した横断系の道路は200円、300円かかるケースがあります。このように、収支率の違う路線を一緒にして同一の料金、1キロメートル当たり25円、同じ値段で高速道路を使ってもらおうという考え方がこのプール制度です。

もう一つ、このプール制を支持する理由、正当化する理由としては、昔つくった道路は建設費が非常に安かった。ところが、最近つくる道路は建設費が上がってしまっている。ですから、この建設費を賄うために料金をとるということになれば、不公平が生じてしまう。たまたま建設時期がずれたことでそういう料金が違うのは不公平ではないか、昔つくった道路は新しくつくる道路を助けるべきであるという考え方です。

今後の道路公団の問題として、収支率が悪くなることが予想されていることを挙げておかなければいけません。これまで順調に供用延長が延びてきましが、これを同じスピードで建設していって大丈夫かということが問題になっています。過去のように交通量は伸びることが期待できないし、先ほど申し上げたように、路線としても横断道路系が増えてきますから、建設費のわりに交通量が増えそうもない。今後の高速道路のあり方については、今いろいろ議論されているところですが、これまでのように供用延長を延ばしていけないだろうということが予想されています。

最後に、まとめを申し上げます。

まず、経済評価(表-2)と財務評価(表-1)という2つの評価の考え方があって、その両方の評価にかなうものでなければ、道路プロジェクトとして採用すべきではないということを申し上げました。普通、経済評価をちゃんとやると、費用便益比が高いプロジェクトはたくさんあると思います。ですから、経済評価のほうでクリアすると、特に社会資本が不足しているケースでは問題なく建設してもよろしいということになりますが、一体、それをどういう組織体で、どういう収入源で建設していくのか。税金で建設していくのか、料金で建設していくのか、そういう仕組みを考え、それがちゃんと事業として成立するかどうかという財務評価の考え方、これは制度の整備、法律の整備とともに、非常に重要な評価になっています。

我が国の経験で言えば、受益者負担の原則による道路特定財源制度、有料道路制度が過去、これまで非常に有効な方法であったことです。

最後に、政府の交通計画者の役割が大きいということをお話ししておきます。全体の道路のネットワークを考えるのは、やはりこれは政府のプランナーでなければなりません。BOTという方法が最近導入されるようになって、民間のコンサルタントの方が事業体と一緒になって計画をつくるということは出ていますが、やはり全体の計画、交通のマスタープランというのは、政府の交通計画者がつくり、それにのっとっていろいろな事業をその中に位置づけていくということが大切です。BOT方式を決して否定するわけではありませんが、政府がちゃんと役割を果たし、1つ1つの事業を位置づけていくことがこれから大切だと思います。ヴィエトナムの道路整備制度もこれからつくられると思いますが、道路というのは、国の経済にとって非常に重要なインフラストラクチャーですから、ぜひ受益者負担原則を参考にして、制度の確立を進めていただければと思います。

 

 

 

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