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日英フェリー産業比較(概要)

 

アルフレッド・ジョン・ベアード

 

日本と英国のフェリー産業には明らかに、多くの相違点がある。日本ではフェリーサービスの大部分が内航フェリーであり、ルートも400キロを超える長距離ルートが多い。内航フェリーサービスが陸上の輸送網と平行して存在することは、日本が4つの主要な島(現在は固定リンクですべてつながれているとはいうものの)から成り立っているという事実で、ある程度説明できる。これとは対照的に、英国のフェリーサービスは近海国際フェリーが圧倒的であり、400キロ未満のルートが多い。

輸送内容は、日本のフェリーが貨物中心である(そしてフェリー会社の収入も貨物収入が主である)のに対し、英国では、北海ルートよりイギリス海峡ルートでの重要度が明らかに高いなどルートによる差こそあれ、旅客輸送(そして旅客収入)が比較的重要である。日本では、内航フェリーによる旅客輸送量は長年にわたって減少傾向にある反面、貨物は増えている。英国では近年、旅客輸送量は全体的に比較的安定しており、貨物市場は活況が続いている。日本のフェリー産業と英国のフェリー産業にはこの他にも相違点がある。積荷トラックの平均重量、貨物量の統計のとり方、輸送量のアンバランス、特定ルートでの行き帰りの品目構成といった点である。

日本の内航フェリーサービスの有効性は、「年間に輸送される貨物のうち110億トンキロを担っている、つまり中・長距離を移動するトラックの4台に1台がフェリーを使っている」という事実が如実に物語っている。これは、英国に限らず他の諸国にとっても、モーダルシフトがどの程度まで可能かを示す、非常に明確なメッセージである。日本同様、英国も非常に長い海岸線をもつ国である。しかも現在、ひどい道路渋滞、増え続ける道路交通量に悩まされていて、おまけに道路のキャパシティ拡大のための支出が削減されて、輸送量増加にキャパシティがとても追いつかない状態である。そこで、もし有効な内航貨物フェリーサービスが英国にあれば、国内道路網の逼迫状態を和らげられるのではないか、と考えられる。日本の例からしても、この点については調査がぜひ必要である。

また、使用するフェリーのタイプに関する相違点もある。たとえば、日本ではサイドランプを使用している、一般的に航行速度が速い、貨物のキャパシティがより重視されているなどである。新船の建造は、日本のほうが英国よりも条件がよさそうである。しかし、英国のフェリー会社が人件費の安い他国籍の乗務員を自由に使えるのに対し、日本のフェリー会社はべらぼうに高い乗務員人件費を捻出しなければならない。日本のフェリー会社は船を購入する(しかも常に日本の造船会社から)のが通常だが、英国では安い会社から必要に応じてチャーターまたはリースすることが多くなっている。どちらのアプローチがよいか、はっきりとした判断を下すことは難しい。というのは、判断するためにはフェリー会社の財務内容を詳しく分析しなければならないし、グループのなかのフェリー会社について個々別々の財務内容が示されることはまずないからである。

日本の港湾はほとんどが公有で、国からかなりの補助を受けている。対する英国の港湾はほとんどが民有で、補助は一切ない。英国のフェリー会社で自社港湾をもっているところは、新しいフェリーターミナル建設にも自ら出資しなければならないため、その分財務的にきつくなる。英国の民有港はすべて、満足のいく投資利益率を確保するために必要なあらゆる資本投資をしていかなければならないであろう。そして、国からの補助がないかぎり、英国の港湾料金が日本より高くなるのも致し方ないであろう(*)。さらなる相違点として、港湾料金の設定(日本では規制がある)や停泊に必要な施設(日本のフェリーはサイドランプを使うが英国では使わないため)、フェリーへのトラック積載法がある。また、港湾のロケーションも日英で異なっている。日本のフェリーターミナルは発達した都市部のただなかに位置する場合が多いのに対し、英国では都市部でない沿岸部にあるのが普通である。その点、英国のフェリー港の有利は明確である。船のターンアラウンドが速いとか土地に余裕があるというのは、大きなメリットである。

日本のフェリー産業ではシェアがやや分散している(主立った会社が12社)が、英国では2社が旅客・貨物の全市場のほぼ三分の二を握っている。その結果、日本のフェリー会社間では価格競争がさかんで、顧客にとってはメリットがあるといえるかもしれない。他方英国では、これほどの市場寡占状態が続くようであれば、競合の問題を考えていく必要が明らかにある。

他の輸送機関との競合という点では、日本では主に道路輸送産業がライバルである。道路輸送は一般的に輸送時間が短く、新しい高速道路や固定リンクの継続的建設も有利に働いている。また、トラック(スピード違反や過積載)に対する規制も十分行なわれていない。英国では、そのフェリーサービスがヨーロッパ大陸に向いていることから、フェリーの主なライバルといえばやはりイギリス海峡トンネルである。英国の国際フェリーによる旅客および貨物の海上輸送マーケットのうち、約15%が海峡トンネルに流れた。ただ、旅客はフェリーだけからでなく航空機からも流れたし、トンネルに流れた貨物の大部分は近海コンテナ輸送からで、フェリーは貨物運賃が一律50%も下がったとはいえ比較的影響は少なかった。最近P&Oとステナラインがイギリス海峡ルートの路線を統合したが、これで運賃水準が少しはましなレベルに回復するのではと期待されている。

有効な内航フェリーネットワークがあればモーダルシフトがどのように進むか、英国は日本からぜひ学ぶべきである。ただ一方で、英国の対ヨーロッパ貿易のダイナミックな成長ぶりとそのなかでフェリーが果たしている役割も、忘れてはならない。貿易価値で見ると、フェリーは今や英国の国際貿易全体の約50%の輸送を担っているのである。現在進められている関税障壁・非関税障壁撤廃の結果、英国経済の他のEU諸国経済との統合がますます進んでいるのは明らかである。ヨーロッパは、ひとつのとてつもなく大きな単一市場に急速になりつつある。「トラック」イコール「単一市場(国内市場といってもよい)」であり、「トラック」イコール「フェリー」であるから、フェリーはいわば経済統合を可能にする重要な要因のひとつといってもいいのではないか。

 

 

 

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