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このレポートでは、イギリス海峡、アイリッシュ海、北海、英国国内の主要4領域を取り上げ、旅客、貨物の両面から英国のフェリー市場を検証、推定しようと試みた。そして、船舶の輸送能力やタイプ、運航船舶数、平均航行距離は各領域で異なることがわかった。これらの結果は、フェリー産業に詳しい人には至極当然のことだろうが、その意味するところは、英国のフェリー産業と一言でいっても、単一の標準化された一様な巨大市場では決してないということ。そして、フェリー会社がとる戦略や配備する資産も、領域によって自ずと違っているということである。

市場シェアの分析では、P&O社とステナライン社の二社で英国のフェリー市場(国内線は除く)の3分の2近くを占めているなど、この産業が極めて集中度の高い産業であることがわかる。子会社も含めれば、P&O社だけで英国の貨物フェリー市場のほぼ半分を占めていると推定される。少なくともこの市場シェアに基づく限り、三つの主要領域を別々に考えるかまとめてとらえるかに関わらず、英国のフェリーには独占状態が存在するといって差し支えなかろう。さらに、海峡トンネルの影響はこれまで専ら海峡ルート(それもドーバ一海峡のみというのが普通)についてのみ考えられてきたが、このレポートは、海峡トンネルはイギリス海峡、アイリッシュ海、北海のすべての主要フェリー領域で競合していると論ずる。故に、ユーロトンネルの市場シェアは、単に「ドーバー海峡」市場の一部としてでなく、もっと広い文脈でとらえられるべきである。とにかく、今回の英国のフェリー産業の調査結果から、市場シェアの問題は英国とヨーロッパ委員会の関係各当局がさらに検討してしかるべきと思われる。また、話は少し離れるが、フェリー産業を支えている英国の港湾に関しては、懸念事項が二点あるようである。つまり、競争と投資である。フェリー会社が港湾を所有している場合、競争が阻害される可能性がある。英国は、フェリー会社が実際に港湾を所有している数少ない国の一つのようで、このような形の垂直統合が真に必要なのか(あるいは、そもそも好ましいことなのか)について確たる結論を出す必要がどうしてもある。さらに、港湾を所有するフェリー会社にとって、港湾投資が大きな問題になっているようである。英国で港湾を所有するある大手フェリー会社(ステナライン社)は先頃、英国の港湾数カ所で新しい設備に投資するために金策を余儀なくされた。仕向地であるアイルランドやヨーロッパ大陸の港湾では、契約期間の間その港湾を利用するという契約上の言質はあるものの、新しい設備に必要な投資は地元の公共セクターや港湾当局がほとんど行ってくれるのに、である。

このように、港湾を所有することで競争上は有利かもしれないが、ターミナル改善のための高い資本コストを港湾局でなくフェリー会社自身が負担するとなると、資金繰りが大変であろう。さらに、海港の固定的性質と、輸送船舶がどんどん変化していくなか常に理想的であるとは限らない立地・設計を考えると、港湾を所有しているフェリー会社は競合各社より機動性に欠ける。港湾を所有していない他のフェリー会社が利用料の安い他港湾の恩恵を受ければ、競争に負ける可能性もある[20]。したがって、少なくともフェリー会社にとって、港湾を実際に所有することは毒入りの杯となりうる。また英国には、フェリー会社に限らず民間会社が所有する港湾一般について、新しいフェリーターミナル施設のためにタイムリーで十分な投資を行えるのか、フェリー会社がせっかく高度な港湾インフラを必要とする新しい船舶に投資しても無駄になるのではないか、と懸念する声がある[21、22]。

 

お断り

このレポートは、東京の港湾空間高度化センターとエジンバラのネピア大学ビジネススクールが行っている、英国と日本のフェリー産業についての共同研究の一環として書かれたものである。

 

 

 

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