?B 尿中mAlb動態と心臓合併症の関連性についての検討
高血圧の心臓合併症の指標としてLVMI値を用い負荷による尿中mAlb排泄の程度の関連性について検討した。図5に示すように、LVMIはNT群(99.5±10.4),HT-L群 (l09.4±13.5),HT-M群 (140.0±29.2),HT-H群(179.8±52.8)とHT群で有意に大きかった。そこでHT群の症例につき尿中Pre-Albおよび△mAlbとLVMIの相関について検討した。図6の散布図に示すようにPre-AlbとLVMIは有意な相関を認めなかった。しかし△mAlbとLVMIはr=0.812(p<0.0001)と有意な正の相関を示した(図7)。
?C △malbと尿細管性鎮白尿(β2MG排泄量。NAG排泄量)およびCCrの関連性についての検討
負荷による糸球体性蛋白尿(mAlb)と糸球体濾過率の増加量(△CCr)との関連性について図8に段に示すが、△mAlbと△CCrの間には有意な相関を認めなかった。また同様に下段に示すように糸球体性蛋白尿増加量と尿細管性蛋白尿β2MG・NAG増加量との間には関連性がなかった。
(3) 考案
本態性高血圧症患者において日常的な好気的運動により降圧効果が期待できることは、これまでの多くの臨床研究より明らかとなっている。運動療法の施行に際しては、その実施に先だって種々臓器障害および心血管系合併症の程度を評価することが望まれる。運動負荷後の尿蛋白の詳細な分析のはじめての報告い以来、運動負荷と蛋白尿に関する研究が数多くある。また高感度の尿蛋白測定法が確立し、微量アルブミンの測定が可能となりその臨床的な意義が注目を集めてきた。1984年Mogensenら2)はIDDM患者において運動後の尿中mAlbの増大がDM性腎症の進行と関連し、負荷による尿中mAlbの変動がこれらの患者の腎障害の予知因子と成り得ることを報告し、それ以来糖尿病患者では尿中mAlbの測定の臨床的な意義が確立されつつある。一方未だ本態性高血圧患者においては尿中mAlb測定の臨床的な意義は明かではない。そこで我々は尿中mAlbに着目し、運動負荷前後の尿中mAlb動態と血圧の変動さらに心合併症との関連性について検討した。安静時尿中mAlbは正常血圧群と高血圧群で差を認めなかった。しかし負荷後尿中mAlb増加量は有意に高血圧群で多く、高血圧群では運動負荷による糸球体血行動態やそれを調節因子において正常血圧群に比較して何らかの果常が存在している可能性が示唆された。この糸球体血行動態の調節に血圧の因子の関与を考え、まず血圧の基礎値と△mAlbの関連性を検討したが有意な所見を得られなかった。そこで△mAlbの増加と血圧値の変動について検討した。しかし一定の関連性を認めなかった。これらの結果は対象の血圧値の変動のばらつき大きかったことによることが考えられ、今後対象症例数を増やすことなどを考え検討する予定である。つぎに尿中mAlbと高血圧性心合併症との関連性を検討した。1988年本態性高血圧患者においてYudkini3),Samuelson4) らは安静時尿中mAlbと心血管疾患の罹息卒,死亡率との関連性について検討し、安静時尿中mAlbは心血管系合併症の予知因子となり得ると報告している。我々の検討では安静時尿中mAlbは高血圧性心合併症の指標であるLVMIの程度と有意な相関を示さず、△mAlbと有意な関連性を認めた。このことは運動負荷は、潜在する尿中mAlb排泄の異常を顕性化する可能性が考えられ、高血圧性心血管系合併症の一つの指標として有用である可能性を示唆している。
運動負荷時に腎蛋白保持能異常が生じる原因はいまだ明確ではない。現在最も有力視されているのは、腎血行動態の変化それに関与する血管作動性物質の影響である。Castenforsら5) は自転車エルゴタメーターによる運動負荷時の腎皆血行動態の変化について検討し、腎血漿流量の著明な低下や糸球体濾過量の軽度の低下がみられ、その結果糸球体濾過率が上昇すると報告している。また運動負荷時にはレニン・アンジオテンシン系の元進やカテコラミン(CA)の血中濃度が増加するが、これらのホルモンを外因性に投与すると運動負荷時と同様の腎血行動態の変化や尿蛋白排泄増加が認められることが知られている。Pessinaら6)はラットにアンジオテンシンII(AII)やCAを投与し、腎機能変化としてRPF,GFRの低下・FFの上昇および尿蛋白排泄量の増加がみられると報告しており、Bohrerら7)はラットにAIIを投与し、AIIがmacromoleculeの糸球体透過性を生じさせることを明らかにした。現在詳細については検討中であるが、運動負荷時に尿中mAlbが異常に増加する症例は、この増加にレニン・アンジオテンシン系や交感神経系の反応性亢仕え進などが関与している可能性があり、腎臓だけでなく他の心血管系合併症へも影響を及ぼしている可能性あり、High-riskgroupとなることが示唆された。
今回の検討では運動負荷による尿中mAlbが高血圧患者で増加する傾向がありその増加度と心血管合併症の程度の関連性が明らかになり、高血圧性心血管系合併症の一つの指標として有用である可能性を示唆された。高血圧患者で運動負荷により尿中mAlbが増加する原図ついては、血圧値や腎血行動態さらにはそれに関与する血管作動性物質の変動などが考えられる。今回の研究では明らかにできなかったが、詳細は今後の検討が待たれるところである。
文献
1) Poortmans,J.R.,Jeanloz,R.W.:Quantitaive immunological determination of12 plasma proteins excreted in hunnann urine collected before and after exercise.J.Clin.Invest.47;386-392 1968
2) Morgensen,C.E.,Chritcnsen,C.K.:Predicting diabcttc ncphropathy in insulin-depandent patients.N.Engl.J.Med.311:89-93 1984
3) Yudkin,J.S.,Forre,R.D.,et al:Microalbuminuria as a predictor of vasucular disease non-diabetic subjects.Lancet.Med.II;531-534 1988
4) Samuelsson,O.,:Hypertension in middle-aged men:Management,mobidity and prognostic factors during long-term hypertensive care. Acta. Med. Scand.Suppl.702:1-79 1985
5) Castonfors,J.:Renal dysfunction during exercise.Acta.Physiol.Scand.Suppl.293,70:14-18 1967
6) Pessia,A.C., Peart,W.S.: Renin induced proteiuria and the effects of adrenalectomy. Procd.R.Soc.Lond.180;43-50 1972
7) Bohrer,M.P.,et al:Mechanism of angiotensin II-induced proteiuria in the rat.Am.J.Physiol.233;F13-F19 1977