おわりに
平成8、9年度の2年に亘り、携帯用電子機器からの電磁干渉波が航空機システムに及ぼす影響について調査・研究を行ってきた。この中では、シールドルームを使用しての代表的携帯用電子機器から放射される電波レベル測定、更に特定の実航空機(ボーイング式777型)を使用しての携帯用電子機器と航空機側システム間の経路損失測定等を実施している。
機内に持ち込まれる可能性のある携帯用電子機器は、外国製品や毎日のように発表される新製品などを含めるとその種類は計り知れないが、今回の測定は代表的な国産の携帯用電子機器の一部について測定を行っているのみであり、また使用した実航空機についても1つの航空機型式についてのみ測定したものである。
これらのことから、今回の研究は電磁干渉波に係る調査の第一歩を踏み出したものといえ、今回得られたデータのみにより携帯用電子機器が航空機システムに与える影響を総合的に判断するのは困難であると言えるが、2年に亘る調査により得られた試験データに基づく範囲内で携帯用電子機器の影響を総括するとすれば、携帯電話等の電波を発射する電子機器については、航空機システムに何らかの影響を与える可能性は全く無いとは言えず、また不要電波を輻射する可能性のある一般携帯用電子機器による影響の可能性は極めて少ないであろうと推定される。
また、国内外航空会社における事例収集結果によれば、一般携帯用電子機器が原因と思われる航空機システムの異常が報告されていることも事実であり、携帯用電子機器による干渉の可能性を否定は出来ない。
したがって、安全第一という航空会社の公共交通機関としての使命を考慮すれば、航空機内では携帯用電子機器の使用が一部制限されるのはやむを得ないことであり、国内航空会社に対し以下の事項をあらためて周知することが望ましい。
(1) 携帯電話等の電波を発射する機器については電源を切ること。
(2) 航空機の離着陸時においては、補聴器、心臓ぺースメーカー等の極めて微小な電力を使用した医療機器及び運航者により航空機システムヘ干渉を起こさないことが確認された携帯用電子機器を除き、一般携帯用電子機器の使用は原則禁止とすること。
今回の調査においては、主として米国RTCAが実施した測定を日本国内で再検証したわけであるが、これらの測定を通じて得られた経験・知識は、単にRTCAの評価基準の妥当性を検証したことに留まらず、今後の研究の基礎として位置づけられる大変価値あるものといえる。この意味からも、当面は航空会社の運航を通じて報告される事例等を継続的に収集し、それらのデータの蓄積・統計処理をすると共に、将来的には運航中の航空機の客室内における実際の電磁干渉波レベルの把握を行うとともにEMI検出器の開発・検討を行うなど、携帯用電子機器による電磁干渉波の影響調査をさらに進展させることが望まれる。