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(2) 誰でもいつでも来られる所

(問) 「就職してなくても、自立できますか、センターに入れるのですか。」

(答) 「就職しないとお金が入ってこないから、家を出るのは難しいと思ってるかもしれません。でも、グループホームで暮らす場合は、ひと月だいたい10万円ほどかかるようですが、もし障害年金があれば、作業所や通所施設であと3万円ほど工賃をもらえると暮らせますね。それに、自分の力で生活したいという強い気持ちがあなたにあれば、家族の人はきっと助けてくれるでしょう。いろんな制度があって、社会もあなたを助けてくれます。必要なのは、あなた自身のやる気だけです。

センターにはおよそ1週間の短期生活プログラムがあって、作業所や通所施設や学校に通いながら参加することができます。1年間、これを何度か繰り返しながら、家族と離れて自立する決意と方法を少しずつ身につけるのです。費用は、朝晩の食事代を含めて一泊1,300円です。」

 

(問) 「自立したあとも、助けてほしいときは来てくれますか、またセンターに帰ってきてもいいですか。」

(答) 「センターで生活する間に、自分の力を、つまり『何ができて何ができないか』を、自分で確かめてください。たとえば、お金はまとめて自分で管理できるのか、食事はどこまで自分で作れるのか、自分で体や身のまわりを清潔に健康に守れるのか、行きたい所へはいつでも自分で出かけられるのか、分からないことは自分でたずねられるのかなどを、援助者の手を借りて、何度もためしてみるのです。そして、自分の力の限界を知っておくのです。

あなたは、自分が『できないこと』を認める勇気をもたなければなりません。それを知ったら、迷わずに助けを求めなさい。それは決して恥ずかしいことではありません。私たちは、あなたが自立した後も、あなたが『できないこと』をいつでも助ける用意があります。実は、これがセンターの一番大きな仕事なのです。また、体や心が弱ったときや、ひとり立ちがどうしても続けられなくなったときは、帰って来て下さい。ここは、ひとときの避難場所でもあります。」

 

(3) 支援の勘所を押さえる

(問) 「私たち援助者の仕事は、利用者に自分の力で生活できる技能を教えることでしょうか。それは、彼らの実際の生活に活かされるものでしょうか。」

(答) 「私たちが彼らに伝えようとするのは、自分の力で生活できる技能ではなく、自分の力で生活する意欲です。もちろん、彼らがさまざまの具体的な生活技能を身につけることは大切ですが、それ以前に、またそれ以上に、自分の力で生きようとする意欲がなければなりません。技能を伝えるのは、意欲を引き出すための手段なのです。彼らは技能を身につける努力を通して、体験の幅を広げ、意欲を深めていきます。つまり、技能の出来不出来は二の次なのです。そこのところを取り違えてはなりません。

援助者は、影のように目立たず、しかし確実に連れ添うものでなければならないと私は考えています。どんなに障害の重い人でも、自分のできる限りの力で社会に立つために、援助者はつねにその影でなければならない。決して彼らの前に立ってはならないのです。だから、私たちは『教える』のではなく、『支える』ことに徹することにしましょう。」

 

(問) 「彼らはほんとうに自分の力だけで生きられるのでしょうか。この過酷な社会へ突き放してもいいのでしょうか。」

(答) 「彼らの社会生活は、決して安楽なものではなく、いつ崩れるかも知れない、多くの危険をともなうものでしょう。間違ってはならないのは、彼らは私たちが突き放すのではなく、自分から突き出るのです。そして、家庭や施設の庇護の手を離れた後に、不安やとまどいや葛藤の中で、彼らは初めて『生きている』自分と対面し、それを実感しながら、社会の生々しい試練に直面します。

その最も大きなものは、『金と性と孤独』でしょう。それらは、私たちのすべてが直面する試練でもありますが、彼らは、そこから自分の力で抜け出ることができない。抜け出なければならないことさえ知らない。いや、試練そのものが何であるかも分からない。そういうことがあるでしょう。時として、彼らに立ちはだかる試練の壁を、彼らの力だけではどうしても乗り越えられない場合があるのです。

 

 

 

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