日本財団 図書館


 

客演者のことば

010-1.gif

●男1(刑事)

再演となるこの度の別役実・作「風の中の街」という芝居は私のなかでも忘れられない印象深い作品になってしまいました。別役氏が、日本で初めての県立劇団のために書き下ろしてくださった作品という事。また、旗揚げ間もないという事で若い劇団員の熱気あふれる取組み方もさる事ながら、何といってもあの一昨年の阪神・淡路大震災に出会ってしまった事です。あの大震災では出発してまだまもないピッコロ劇団とその若い劇団員たち、そして私自身も「演劇とは……」という根源的な問題に直面せざるを得ませんでした。ここでくわしくその問題について述べるには時間がありませんが、ピッコロは震災の最中での演劇を通じた被災地激励活動でその役目を立派に果たされた様です。何より大事だと思う事は、一生かかってもこれで良しという事のない役者の仕事では、どんな事があっても我々は立ち止まる事は許されないという事ではないでしょうか。

010-2.gif

●男3(中岡岩男/当り屋)

「風の中の街」は、私にとって思い入れの深い作品です。一昨年1月、公演を間近似控えた17日、突然襲った阪神・淡路大震災。公演は中止。その後5月初演されましたが参加する事ができず、初回再び出演させていただくことになりました。久しぶりに会ったピッコロ劇団の仲間たちは、辛いことがたくさんあったと思いますが、ひと回りもふた回りも大きくたくましくなったように感じられます。さて、現在は稽古も中盤といったところ。町の人々が歌いながら登場し芝居は始まります。この人々の歌を聞いていると、何故かわかりませんが背筋がゾクゾクしてきます。私は当たり屋一家の父親。演出家、ピッコロ劇団の仲間達、金内さん、大橋さんに、ぶつかりながら稽古しています。皆の力が結集して、どんな芝居に出来上がってゆくのか楽しみです。そして……。本日はご来場ありがとうございます。「風の中の街」を味わい楽しんでいただけたら、私たちにとって、こんなに幸せなことはありません。

 

010-3.gif

●女2(田口初江/岩夫の内縁の妻)

〈ウム、みんな輝いているな、瞳が。ア、力強く底光しているみだいた。チクショウ、私のひとみはくもっている。もうダメなんじゃないか、芝居なんて出来ないんじゃないか……〉

送っていただいた前回公演のパンプレットをめくっていた手が“劇団員の顔”のページでとまってしまった。一人一人の顔とニラメッコしながら、そう感じてしまいました。若い頃は私だってキラキラした瞳だったよな-。ちょっと待てよ、昔のこと言い出したらもうおしまいだ。それこそチクショウ、チクショウだ。それより早く台本読もう。

今回は若い人ばかりの劇団での公演。久し振りだ。私、ちょっとこわいのかな。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION