ほうがいい」と唱える人すらいます。制度としてどちらが正しいかはわかりませんね。
土野 加藤先生、どうでしょうか。
加藤 物事は両面を見なくてはいけないと思いますね。「こういう税制なら寄付したほうが得になる」という損得の原理は絶対に大事だと思います。他方で、「制度がこうだから、制度に乗っかっていればいい」というのもおかしい。やはり心持ちの世界というのはありますね。
樋口 あります、あります。
加藤 初詣に行ってお賽銭を入れるでしょう。家内安全など、願っていることは現世利益かもしれませんが、あれは純粋な浄財なんですね。それが心持ちの問題ということです。だから、「私は税金を納めている。寄付もした。だから街頭にいる貧しい人たちに自分の心持ちを出す必要はない」という開き直りもまたおかしい。両方相まっていないといけないのではないでしょうか。
樋口 両方あるのがいちばんいいでしょうね。
民間の強みを活かす
加藤 もうひとつ、日本でフィランソロピーが非常に盛んになったと仮定しましょう。たとえば一兆という規模になったとします。そうなったとき、今の中央省庁や地方自治体がやっているような争奪戦が始まってしまうと困りますね。
それから、果たしてそれだけの使い途を考えることが出来るかどうかということも問題です。学術文化、福祉、国際協力、いろいろある中で、どういう優先順位をつけるかということも同時に考えておかないと、ただフィランソロピーが無条件でいいとは言えないと思うのです。このためにこういうお金がいるんだ、ということがはっきりしていなくては。
樋口 そうですね、目的がね。今までそうした認定は官庁がやっていたわけですよ。それを民間に移したのが、メセナ協議会であり一%クラブなんですね。だから、徐々にフィランソロピーは進んできつつあるんです。
加藤 そうですね。ですからわれわれのほうでも、研究費を文部省に申請してもいろいろな制限があったり、こういう研究は前例がないからという理由で拒否されることがあるわけです。そうした場合に、じゃあ財団にお願いしようかということになったり、あるいは最初から中央省庁は相手にせず、企業にお願いするというように変わってきていますね。
樋口 時間がかかりますからね。
加藤 受益者といいますか、寄付をいただくほうもいろいろ工夫をしなくてはいけません。ただ、「何か世の中のためになることに使ってくれ」ということですと、ちょっと困ることもある。用途を指定していただかないとね。
財団その他の、こういうセクターのお金は、即時に出るというのがありがたいんですよ。国の予算というのは三年はかかりますからね。まず何かこういう事業を興したいといって、調査費がつくまでに二年。それから実行に移るまで五年。「即決」というのがありがたいですね。
(一九九八年三月三〇日収録)