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多様化する企業社会

 

土野 それではもうひとつのテーマに入りたいと思います。企業社会である日本では、企業やそこで働いている社員がどういうふうにフィランソロピーに取り組むか、ということが一番大事だと思うんです。

四月一日からビッグバンが始まって、大競争時代ということになりましたね。加えて不景気ですし、みんな自分を守るのに精一杯で、世の中のため、他人のためというようなことは二義的になってしまう。ですから、フィランソロピーを考えるにはなかなか難しい状況に来ているのではないかと思うのですが。

樋口 経済が成熟しますと、全体としてはGDPが上がったり、富裕になっているけれど、二極分化がものすごく進むんですね。アメリカでも、好景気の恩恵にあずかっている人は、非常に少ないわけです。小切手を持てる人は四人のうち一人しかいない。残りの三人は、ビッグバン時代に生き残ろうとする金融機関にとって相手ではないのです。

加藤 一九世紀の半ばにハーバート・スペンサーという人が社会ダーウィニズムというのを唱え、適者生存の法則というのを作りましたでしょう。あれはアメリカの、良き発展時代のひとつの哲学でした。それと同じことがまた起こりつつあるというのが、アメリカの現状のような気がします。景気や雇用状態はいいしインフレはない、といいことずくめのように言われているけれども、私が最初にいた一九五〇年代と比べたら、貧富の差は雲泥の差で進んでいますね。あの頃は中産階級国家でしたが、今は大変な階級国家になってしまった。

土野 企業と社員の関係はどうでしょう。

樋口 これまでの企業は「金太郎飴集団」といいますか、どこを切っても同じような人間ばかりで成り立っていた。「あの人間はうちの会社向きだ」ということで、トップが好きなタイプの人間を好んで採用していたわけです。

しかしそういう時代は終わり、今は「桃太郎集団」になってきたのではないか。嗅覚が鋭くて、地面を這いつつ下からものを見ているイヌ、マストをサッと登って上から見通すサル、あるいは遠くへ飛んでいくキジという風に、いろいろな能力を使ってインフォメーションを持ってくる、あるいはそれを自分で判断する。要するに、多様性が大切なわけです。

また、レマルクという人の著書に「西部戦線異状なし」がありますね。一人の兵隊がある朝聖塹壕から出てきて目の前の花を見ようとした瞬間、たまたま敵兵が退屈しのぎに撃ったかもしれない流れ弾に当たって、不慮の死を遂げてしまう。

彼の奥さんは掛け替えのない夫を失い、両親は目の中に入れても痛くない息子を失ったわけです。けれどもその日の彼の故郷の新聞には、「本日は西部戦線異状なし」とある。世界中の新聞も、「本日は独仏戦線に全く異状はなかった」と書

 

 

 

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