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団を指揮する海軍の艦隊司令官のなかには暗愚で判断をあやまった人物もいた。だから、せっかく軍艦が「護衛」していてくれるはずなのに、魚雷攻撃で全滅してしまった船団もすくなくはない。自主的な判断で行動がゆるされたなら、みごとに潜水艦の追尾をかわすことのできた船長も、司令官の命令に服従を余儀なくさせられたために海の藻屑と消えた。

その教訓を、いまこそふりかえってみるべきであろう。「護送船団方式」ということばを現在のマスコミは単純に「官依存型」というふうにとらえているようだが、わたしにいわせれば、とんでもない。戦争中の「護送船団」はけっして安全なものではなかった。司令官のミスで数万隻の輸送船が撃沈されたことを想起してみたらよろしい。さきほど甲板で昼寝といったが、昼寝しているあいだに突然魚雷攻撃をうけて沈没した船はかぞえきれないほどたくさんあったのである。

それにくわえて、「護送」の任にあたっていた軍艦もまた撃沈された。つまり「官」にたよっていれば安心、というのは神話なのである。護送船団は危険がいっぱいなのだ。戦中派の船長はそのことを知っている。しかしいま企業のトップにいるひとびとのおおくは、その危険を知らない。だから、しゃぶしゃぶ接待などというおろかなことで「官」に媚びを売って、その結果、会社は倒産、といった悲劇が発生している。いまだいじなのは帝国海軍を疑い、みずからの判断で「援護」なしに航海できる船長であり、船団である。それができたときに、はじめて日本の組織は「個性」をもち、自信を回復できるはずなのだ。

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かとう・ひでとし

中部高等学術研究所所長。1930年東京都生まれ。一橋大学卒業。京都大助教授、ハワイ大教授、学習院大教授を経て現職。マスコミ論、世相論、比較文化など多角的に現代社会を洞察してきた行動派の社会学者。著書に『文化とコミュニケーション』(思索社)『見物の精神』(PHP研究所)などがある。

 

 

 

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