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は、他のポスト植民地社会が迫られたような少数派の人権に対する妥協や譲歩をしなくてもよかった。日本は二一世紀の多文化世界に対して準備を整えなければならない。日本政府は全体としては閉鎖社会を維持し、調和を求め、リスクを冒さないようにするほうが安全だと思うかもしれないが、日本が多様性を育てることは必要になるだろう。昨年九月、今回の報告について考え始めていた時、私は京都の東本願寺の外に貼ってある講演会のチラシを見た。そのテーマは「人生に有益な多様性」という題だった。仏教徒のこの知恵に誰か異論を唱えられる人がいるだろうか?

現在の若者たちから判断して、次の世代にはどのような役割を期待できるのだろうか。日本の現在の世代は、あまりにも豊かだとしてしばしば非難される。贅沢な生活を送っている、実際の社会についてはほとんど経験のない甘やかされた子供だ、というのである。私も彼らの欠点をいくつか知っている。だが私の見るところ、彼らは驚くほど解放されていて、「個人主義的」で、その態度は体制順応的ではない。ロンドンでみかける彼らの多くは、そのスタイルが極めて個性的で、なかには日本人同士よりも外国人と付き合うほうがいいという者もいる。彼らがどの程度まで日本人を代表しているか、私には判定できない。それに旅行という点に関しては、彼らは年上の世代よりも国際的である。彼らは表面的な旅行者ではなく、外国を最初から知っている。日本の次の世代がどの程度まで個人主義的になるのか――これはこの事例からだけでは予測することはできない。

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イアン・H・ニッシュ

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス(LSE)名誉教授。1926年生まれ。エジンバラ大学修士号取得、ロンドン大学博士号取得。シドニー大学教授、LSE教授、ロンドン大学経済・政治学部長などを歴任。1991年に勲三等旭日章を叙勲、日本国際交流基金「国際交流基金賞」を受賞。著書に、『日露戦争の起源』『現代日本論:東西ヨーロッパからの研究視角』『日本の国際主義との闘い:日本・中国・国際連盟』などがある。

 

 

 

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