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件当点は,社保老人だけが平均でH.3年度を上回り(101%),それが社保の平均にも反映している(105%)。国保の本人家族の件当点は,この5年間減少し続けており,平均でも67%まで下がっている。また退職者医療をみると,これも平均88%まで下がっているものの,国保老人の93%に近い数値にとどまっている。退職者医療は65才以上の人を対象としており,慢性疾患や複数の疾患を合わせ持つ事が多いため,医療給付の水準が一定以下にはなりにくいためと考えられる。

B. 老人医療費について

老人医療費は,H.4年度に件数の伸びとともに上昇し,H.3年度に対し128%で推移している。件当点はこの間96%に抑えられているので,件数の伸び(133%)に支えられていることがわかる。ただし内容的には社保老人の件数の伸びに支えられたものであり,国保老人の件数はこの間減少増加と変動している。このため全体としては,図4に見られるように1000件前後に停滞している。全医療費に占める社保老人の割合は,H.3年度の16.4%からH.8年度には29.8%と1.8倍になっている。社保医療費に占める割合も,この間48%から64%へと上昇しており,健保組合の老人医療費負担が大きくなっているのが推察される。

これに対し国保老人は,件数の割合も50%前後で推移し,医療費の割合もH.4〜6年は73%台で安定,H.7〜8年は80%前後に上昇したものの,比較的変化は穏やかである。このことは,島内の高齢化社会を考えた時,国保の世帯についてはほぼ高齢化社会が完成に近づきつつあるのに,社保の世帯は現在急速に高齢化社会が進行しているとの見方も可能かもしれない。

島民が減少してゆく中で,相対的に老人医療費の割合は今後も高まってゆくと考えられるが,H.4〜8年間の老人の全件数,老人医療費はほぼ一定しており,老人医療費の絶対額はこの水準で推移することが予想される。

C. 町国保の現状と当診療所国保の比較

表3にみられるように,H.5〜8年度の町国保の医療費は,対前年度比7.8%で上昇を続け,老人医療費は更に高く11.8%の上昇で推移している。件数の伸び率をみると平均1.3%で,大きな伸びはない。しかし,人口の高齢化に伴い,老人医療の件数は年平均7.6%の割合で上昇し,老人以外では,退職者件数は増加傾向であるが国保一般の減少により,両者の合計は減少傾向にある。件当点は全体で年平均6.7%,老人医療で4%の割りで上昇している。一般では年平均6.9%の上昇,退職者でも本人で3.2%,家族で5.5%の上昇率で,全てで件当点は増加傾向にある。

老人医療の占有率をみると,H.4年度に件数で32%,医療費45%だったものが,毎年比率を高め,H。8年には件数で41%医療費で52%を占めるに到っている。

当診療所のH.5〜8年の平均上昇率は,すべての面でマイナスで推移している。件当点は,全体でも老人医療でもほぼ一定に抑えられている。老人医療の件当点は,H.4〜6年まで町と500点ほどの差が認められるが,これは月20件前後(全体の約2%)の在宅医療を抱えているためと考えられる。

また件数をみても,老人医療の件数はほぼ一定で,その他の漸減が全体件数を漸減傾向に導いている。島の人口は,この間年2.9%の減少で推移しているが,島民一人当たりの件数では年2.5件とほぼ一定している。このため,島民の減少の程度が,件数にそのまま跳ね返ってくる可能性が高いと考えられる。老人医療の件数が頭打ち状態にあることは既に述べたが,島の人口構成の推移をみても,高齢化率は進んでも高齢者の絶対数の伸びは年平均3.5人である。これに対し,老人外の人口は年平均22.8人の割合で減少している。H.6年度の資料によれば,外来診療費は老人が若人の4.2倍といわれているが2),これを加味しても(3.5×4.2=14.7)老人外の人口の減少による影響は大きく,今後島内の医療費は減少してゆくものと予想される(当診療所医療に限っての結論)。

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ただし,必然的に家庭での介護力の低下が予想されるので,在宅医療の件数とその質的発展いかんによっては,医療費が増加してゆくこともありうるが,この5年間の在宅件数の推移でみる限り,その可能性は少ないと考えられる。

一方町国保は,ますます老人医療が件数とともに件当点も上昇して,国保における比重を高めていくと予想される。しかも,件数の減っている老人外でも,件当点は着実に上昇しており,全体として医療費は伸び続けるものと考えられる。離島と違って,他科へのアクセスも良いと考えられ,一人で複数の医療機関を受診したり,長崎や佐世保などの大病院外来の受診なども多いためと考えられる。また町内でも,新規開業医の参入などもあって,当面は医療費の増加は続くと予想される。

 

VI. まとめ

この5年間の診療所における医療費と町の国保の状況を分析し,今後の推移を予測した。国の医療政策が,患者負担による受診抑制に向かう中で,当診療所のような医療圏の限定されている診療機関は,経営的に極めて厳しい状況に追い込まれることが予想される。多くの医療機関はこの時期を,件当点の増加によって乗り切ろうとするであろうし,この間の当診療所のような試みは今後は一層困難になると考えられる。

 

参考文献

1) 厚生省:厚生白書(平成7年版):356・357:財団法人厚生問題研究会,1995.

2) 厚生省保険福祉局:老人の保健医療と福祉:78・80:財団法人長寿社会開発センター,1996.

(大瀬戸町国民健康保険松島診療所 〒857-2531 長崎県西彼杵郡大瀬戸町松島内郷288)

 

 

 

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