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カルテが整備された過去13年間の資料によると,アレルギー性結膜炎の漸増はアレルギーに対する住民の関心によると思われ,翼状片については一般に島に多い疾患といわれるが,無料検診において翼状片手術を指示された結果,現在では減少傾向にあると思われる。

受診者は高齢者が多いため,老人性白内障が目立つが,白内障手術が普及し,昭和60年には全く見られなかった眼内レンズ挿入眼が,平成9年度には15眼認められた。いずれも佐世保市などの島外で手術されたもので,術後治療のため2〜3週間の滞在を余儀なくされている。眼精疲労の増加は屈折異常に対する知識向上の現れであろう。

このように眼科などの特殊診療科の診察が必要な患者は潜在的に都市部と同じく存在しており,需要は多いと考えられる。むしろ,このように,へき地かつ高齢化のすすむ地域では,老人性白内障に代表される,加療すれば良好な視力が得られる眼科疾患を,検診にて積極的に指摘することが極めて重要である。

 

IV 検診を経て

例年,宇久町民の約3〜5%が受診するこの眼科無料検診では,平成9年現在でも受診者の83.6%が,何らかの処置や継続した点眼治療を受け,或いは通院治療や手術が必要であると診断された。検診開始当初の目的の一つは,緊急な処置を必要とする重篤な疾患や不顕性に進行する疾患の患者を一人でも多く発見することであり,それ相応の成果を上げたと考えている。そして,約30年間にわたる離島診療により,今日に至っては幸いにも島民の眼科衛生知識が予想以上に向上し,未治療の重症患者はほとんど見あたらなくなった。

あくまで検診に限定するのであれば年1回でも意義があるが,実際には治療の場としての性格も有しており年一回の検診だけでは十分とは言い難い。従って,一定期間通院を要する患者への対応が課題として残されているが,対応策の一つとして,後述のホットラインを開設し,また,現地の診療所と連絡を密にし,検診時の疾患名,処方薬などをもとに,随時電話で診療所の医師へ指示を行うことにしている。

 

V これからの離島における特殊診療科

過疎地である離島に眼科医,あるいは耳鼻科医が常駐することは残念ながら当分難しいと考えざるを得ない。現状では,離島の一般診療に医師或いは役場職員と日頃から無料検診等を通じて信頼関係を結び,地域住民の衛生知識の啓蒙を心がけると共に,健康管理の維持に互いに常時情報交換を重ねるべきである。

平成6年からは宇久町国民健康保険診療所と福田眼科病院との間に,カラー静止画像の電送システムを設置し,ホットラインとしての役割を期待している。願わくば,都市部の眼科開業医が遠隔地に位置する離島の眼科主治医として活動することが望ましい。

 

VI 結語,謝辞

宇久島無料検診をはじめてからすでに三十余年の歳月が流れた。その中で多くの医師,看護婦,パラメディカル,医療機器技術者,眼鏡技術者他,多数の人が無料検診の主旨に賛同し,孤島に渡り共にへき地医療を実体験した。研修を終えたばかりの医師,看護婦も,この宇久島無料検診に参加し,五島列島の潮風を吸い,眼料,耳鼻科医療の砂漠地帯で何かを感じとってくれたものと思う。この検診活動の記録を通じて,毎日診療に追われる医療従事者がへき地医療にも関心を向けていただければ望外の歓びである。

最後に,この長年にわたる無料検診は,宇久町役場,小値賀町役場の積極的な受け入れ体制のもとに,検診後も診療の架け橋となっている診療所の医師,看護婦,保健婦等の全面的協力の結集である。宇久島並びに小値賀島に心から感謝したい。

 

(医療法人社団福光会福田眼科病院 〒814-0013福岡県福岡市早良区藤崎1-24-1)

(なかよし眼科クリニック 〒814-0171福岡県福岡市早良区野芥7-19-35)

(笠耳鼻咽喉科医院 〒814-0006福岡県福岡市早良区百道2-9-3)

(宇久町役場 〒857-4901長崎県北松浦郡宇久町平郷2581-5)

(宇久町国民健康保険診療所 〒857-4901長崎県北松浦郡宇久町平郷2344)

(小値賀町役場 〒857-4701長崎県北松浦郡小値賀町笛吹郷2376)

 

 

 

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