ヒト・パルボウィルス(HPV)感染症の経験
―りんご病(伝染性紅斑・EI)の周辺に多数のHPV感染者が存在する―
京都府・伊根診療所長
今子 弘美
要旨
1996年12月より1997年7月まで,5家族20例のHPV感染症を診察する機会を得た。
I. 特異な四肢の腫脹(炎症性浮腫)を示した成人HPV感染例では,皮膚科,救急診療所,循環専門医で蕁麻疹,風疹,不明の浮腫等として治療されたり,長期間,経過観察されることがあった。
II. 成人HPV感染症は,いったん症状が改善するが再発症する。
二峰性経過をとり,完治まで45〜48日もかかる例があった。
小児においても成人同様に,感冒様症状と皮診の二峰性をとり,経過の長い例があった。
III. 一過性の腎障害を示した男性症例があった。
IV. 診断が容易なEI周辺に長引く感冒の小児と,四肢の浮腫を示す成人HPV感染者を発見することは,僻地医,家庭医の重要な役目である。
HPV感染症は,小児で発疹が出た場合,りんご病(伝染性紅斑・EI)として容易に診断が可能な疾患で,保育所,小学校,父兄等が診断を下して受診することが多い。
HPVは小児と同様,成人にも両頬の紅斑という発症をしている場合でも,内科医は,りんご病についての認識が少なく顔面,四肢の紅味を帯びた浮腫状の腫脹,関節痛等,顔面発疹以外の多彩な症状に目を奪われて,りんご病という診断がつけにくい。
一般には予後がよいといわれている。
妊婦に感染した場合の胎児への影響,溶血性貧血患者を重症化させること以外は,希なケースとして胸水例,脊椎炎,肝障害の報告がある。
昨年まで内科医として小児のりんご病を診察する機会のなかった筆者は,僻地医として家族ぐるみで小児疾患も診察することとなりHPV感染症に対する認識を新たにした。
当診療所は,丹後半島の北端にあり,人口3,300人のほぼ1/3程度の伊根湾に面した地区の患者が受診する。
そこには一保育所,一小学校がある。
1996年12月より1997年7月末までに,5家族18人のHPV感染症を診察する機会を得,興味ある経験をしたので報告する。
伊根地区の保育所では,2月中旬より3月24日にかけて典型的な両頬の紅斑症状を示す児童が続出し,全児童37人中,19人がEIに罹患した。
伊根小学校では,2月18日より3月19目にかけて,全児童78人中,8人がEIと診断された。
EI小児の家族で同時期に当診療所を受診した感冒様症状や特異な症状を示す者が多かった。
それは非常に特異な顔面,四肢の浮腫(普通の浮腫にしては全体に赤っぽく蕁麻疹とも異なる網状皮疹を伴った例があり,その浮腫は圧痕を作りにくく,弾力性がある浮腫で炎症性浮腫と思えた)であり,全身倦怠感,関節痛であった。