葛生町に於ける高血圧の現状
栃木県・葛生町立常盤診療所
石塚 毅彦
要旨
平成7年実施の葛生町定期検診の受診者2,765名の記録に基づき高血圧の現状を分析した。葛生町を27地区にわけ,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧等を求め,それらの値が全地区の相加平均値を越えた地区数を数えた。山間地域は市街地域よりも血圧の高い地区が多く,年代別にみても60代では血圧の高い地区が多かった。逆に高血糖者数と高血圧者数の比は,市街地域に高い地区が多かった。血圧の高い地区は低い地区よりも総コレステロール値,中性脂肪値が共に高かった。次に血圧測定を施行した総数3,250名中,職種又は趣味を知り得た2,031名を51群に分類し,血圧を比較した。蕎麦を食べる機会の多い蕎麦センター職員は血圧が低く,建材業者は血圧が高かった。葛生町の高血圧は都市型と農村型の混交型であることが示され,また高血圧関連疾患の予防には高血圧の治療と並んで地区全体の血圧レベルを下げるに如くはないという結論が得られた。
緒言
厚生省発表の統計によれば,栃木県の脳卒中死亡率は男女共にワースト1位又は2位を占め1),その減少が焦眉の急を要する課題となっている。この流れに沿うべく葛生町では例年住民を対象とする集団検診が行われており,受診者数は町人口の約25%に上る。検診はその行為自体によって,あるいは二次的医療を介し町政に反映される。固より検診は単に医療に資するのみか疫学を利する術でもある。両者を統合し実践することこそ地域医療の担い手に委ねられた責務であろう。本研究の目的は地区別又は町別に血圧を比較し,血圧の高い地区の特色を明らかにすること,また血圧の高低と職種との関係を明らかにすること等により医療の実践に役立たせ,延いては町民の健康と長寿に寄与することにある。
対象と方法
対象は平成7年6月27日から8月3日の期間,地区毎の公共施設あるいは保健センターに於いて実施された集団検診の受診者,葛生町内事業所の定期検診の受診者,小・中学校の教職員,当診療所来訪の製薬会社の社員及び医薬品小売り卸売会社の社員,許諾をえて血圧測定を実施した高等学校の教職員並びに家庭婦人バレーボールチーム〔俗称ママさんバレーボールチーム〕の選手,隣接する市の養護老人ホーム職員等からなり,集団検診の受診者数2,765名,その他485名,総数3,250名。内訳は,男1,163名,女2,087名。年齢は20歳より92歳。まず,集団検診の受診者のみを対象とし集団検診の収載項目の中から,地区名又は町名,収縮期血圧〔SBP〕,拡張期血圧〔DBP〕,平均血圧〔MBP〕,血糖,食事の有無,食事後採血までの経過時間,総コレステロール〔TC〕,高比重リポ蛋白コレステロール〔HDL‐C〕,中性脂肪〔TG〕,ヘモグロビン,ヘマトクリット,心電図所見及び眼底所見等を選び,地区間で比較した。次に,全ての対象者の中で職種または趣味を知り得た2,031名,男841名,女1,190名を職種別,趣味別に分類し血圧を比較した。統計学的有意差の検定には,Student's t test,x2 test,F test等を使用し,危険率p<0.05を有意とみなした。