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本調査研究の計画と実施

 

――若年者の職業選択とキャリア開発に関する調査研究――

 

1.目的

現在社会の若者が「モラトリアム世代」(Moratorium Generation)と形容されて久しい。「豊かさ」を背景として、社会的に自立した存在として自らの言動に責任をもつことを、しばし猶予していたいとするその社会的性格は、日本ばかりではなく欧米先進国にも顕著にみられるようだ。

その欧米先進国では、15〜24歳の若者失業率が10%を越えるのが常態化しているが、日本でも8%(1997年3月)を示し(但し、1997年平均は6.7%)、全失業者中でこの年齢層は3割を占め、欧米並みになりつつある。日本の場合、産業構造の変化に対応した雇用の場の確保や適職開発が十分になされていないことにも留意する必要がある。実際、目下の就職活動は短期間での「就社」活動に終始する場合が多く、学生は自己の適正を見極める機会が不足がちである。それが厳しい就職状況と重なって職種ミスマッチを惹起し、離転職を繰り返す悪循環ともなっている。職業進路の模索、初期キャリア形成の機会の乏しさなどが、自己理解と職業的自律への動機づけを失わせることで、さらにモラトリアム化が広範に進行することにもなる。

一方、産業転換にまつわる企業などの労働力需要サイドからみると、従来製造業では、OJTを中心として長期にわたる教育訓練を施し、「内部化」を深めながらもキャリア形成が個人の成長に統合される形で、職業労働の意義や動機づけに少なからず貢献してきた。しかし世界的な価格競争を背景に、新しい商品とサービスに重点を置き、多様化・個性化・流動化した時代に適合したマーケティング戦略が不可欠な昨今の経営環境の激変といった事態においては、企業内で長い期間をかけて人材を育成するゆとりが少なくなっている。そうなると、いきおい即戦力を求めたり、人件費の軽減を旨とした非正社員など外部からの人材調達・有効活用が積極的に行われる。

またサービス経済化の進展は、サービスの特質として常に新鮮なものを提供することが不可欠であり、サービスは在庫がきかないことと相まって雇用構造のフレキシブル化を加速させる。そこでは、アルバイター、パートタイマーなどが活躍する場ともなり、容易に収入を得ることができることから、ますます本格的な適職探しやキャリア形成を遅らせることになる。

若年者をとりまくこうした変化や諸問題を踏まえて、本調査研究では、若年者の職業意識や選職行動を把握し、彼らの職業的自立への方向を促す職業指導体制の拡充とキャリア開発の在り方などを追求する。その際、欧米で広く行われ、日本でも労働省等が導入の検討をスタートさせた「インターンシップ制」(在学中の職業体験)の可能性を探る。そしてこれらを通じて、来るべき21世紀への職業設計と新たな雇用創出に寄与しようとするものである。

 

 

 

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