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屋で、異様なにおいと雰囲気の中で、人間の首をノコギリのようなもので切るというような、まさに残酷で暗いものであった。いよいよ解剖学実習初日、軽い緊張感を抱きながら入った実習室は、新しくて清潔で、日光がさんさんとより注ぐ明るい部屋であった。イメージとは全く違っていた。部屋の中には緑色のシートをかけられた解剖台がずらりと当たり前のように並んでいた。ああ、これから間もなく、あの緑色のシートの下にあるものと対面することになるのだと思った。怖いような、楽しみなような気持ちだった。

黙祷が済むと、いよいよシートがはずされた。白い布を除くと、そこには人間が横たわっていた。ああ、本当に人間だと思った。周りを見回すと、どこもかしこも人間が横たわっていた。目の前に横たわる人間が、生きていた頃のことを想像した。この人は昔は生きて、動いていたのだ。周りにいる人々もそうだ。今いる自分と、目の前に横たわる人は同じ人間だが、生きているのと死んでいるのとでは全く違う。死ぬこととは、どういうことなのだろう。魂の存在とはどういうものなのか。そんなことを考えた。

実習はやはり初日から大変だった。説明を聞いたり、ビデオを見ていると簡単にできそうな気がするが、実際は全然違う。何とか皮切をしたものの、この白っぽい結合組織の中から、本当に神経や血管を見つけ出すことが出来るのだろうかと思った。とにかくやってみるしかない。持ち慣れないピンセットを両手に剖出にかかる。神経や血管がどういうも

 

 

 

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