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た。それは、本に載っているような構造物がそう易々とは見つからないことに戸惑ったことに始まる。例えば、結合組織が血管や神経に絡みつき、器官同士を結びつけているのだという知識はあったが、しかし、これほどまでに複雑で、巧妙であるということまでは想像もしていなかった。しかも、大きくはヒトに共通している器官の位置や神経・血管の走行なども、実際に探すとなると、これほどまでに個人差が大きく、わかり難いものだとは思ってもみなかった。確かに、考えてみれば至極当然のことであるが、その当然のことが実習を通してはじめて実感できたのだ。人体は正に自然であり、小宇宙であり、たとえ、人間がさらに高い科学技術を手にしたとしても、到底真似することのできないであろう創造物であるということを目のあたりにし、驚きとともに、畏れすら覚えた。

さらに、目の前にあるご遺体はもうすでに機能を失って動かないが、しかし、少し前までは我々と同じように其れぞれの細胞、組織、器官が其れぞれの機能を担い、全体として個体レベルで生を作り上げていたのである。一見、何の脈絡もない器官同士がまとまって一つの大きな生という機能を生み出す。当たり前のことだが、不思議でたまらない。恰も一つひとつの細胞、組織、器官が其れぞれ自ら意志を持っているかのように振る舞い、しかもそれが一つになる。「この器官はこのような働きがある」というような知識も、この人体という自然の創造物を目の前にして、一言では言い表すのはおこがましいと

 

 

 

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