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解剖学実習を終えて

 

逸村 一紀

 

実習初日に、自分の目前に表れた御遺体にとても大きなショックを受けました。そこにはまぎれもなく、生前は、名前や家族をもち人として営んでいた人体がありました。その方の尊い意志によって献体されここにあることを思うと、その方の生きるということに対する考え、また医学に対する考え方に、感激すると同時に感謝の気持ちを心にいだかずにはいられません。

歯科大学に入学し、歯学を志してさまざまな学問を学習してきました。これは将来、歯科医師となり、患者を治療するために必要な知識と技量を得るためのものです。その一つとしてこの解剖学実習があります。初めて御遺体にメスを入れ、そこに広がったのは、まさしく驚異の世界でした。体の情報を伝達しつかさどる神経は、この体内の本当にいたる所に存在し、さまざまな状態で必要な部位に必要に存在する筋肉は、その収縮と弛緩のみで、あの人間の複雑な運動を表現し、また命の血液の通路である血管は、心臓より出て、幾重にも枝分れし、顕微鏡でしか見えないほどの毛細血管となり、それらはまた合流し合い心臓へともどる。肺は肋骨に守られ、消化器はそれぞれの働きをはたすべくそれぞれ、むだの無いつくりで存在している。これら人体は言いつくせないほどに機能的にできてお

 

 

 

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