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身体を犠牲にしてまで医学・歯学のために献体をして下さった方のことを考えた時、最後まで責任をもって学ばせていただこう、と心に誓った。

実習では、学名や人体の仕組についても学んだが、実習を進めていくうちに、歯科医師を目指す友人達との絆も深くなった。僕は、その点も本当に良かったと思っている。しかし、一番僕が感銘を受け、今でも心に深く刻まれているのは、実習の最終日に、学長でもある佐藤亨教授がお話しして下さった、献体者の気持ち、またご親族の気持ちである。おそらく、献体して下さった方々も人間なので、ご自分の身体に医学のためとはいえメスを入れられることに、少なからず抵抗があったに違いない。しかし、そのことを踏まえて、さらに自ら進んで身体を提供して下さるということは、本当に立派だと思う。まさに、「無言の教授」である。僕も、人のためになりたくて歯科医師になることを決意したが、ここまでの勇気と決断は自分の中にはまだ無い。今の僕が献体を希望したとしても、それは純粋に医学・歯学のために身体を他人に提供するのかというと、もちろんその気持ちのつもりであっても、どこかに偽善が潜んでいるような気がする。また、ご親族の方々も立派だと思う。肉親の死というのは本当につらい。絶えず与え、そして与えられていた愛情の主が突然消えてしまうのだから、せめて身体だけは時間の許す限り自分のそばにおいておきたいと思うのではないだろうか。そうした気持ちを抑えて献体として大学に送り

 

 

 

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