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た。

知識においてもそうですが、それよりも精神的に得たもののほうがより大きかったような気がします。これから進んで行く道というものの重さというものをいやでも感じざるを得ませんでした。

 

解剖実習を終えて

 

江黒 美栄子

 

辺りがすっかり秋の静寂に包まれていた十月末、初めての解剖実習が執り行われた。そのときの気持ちを私はおそらく一生忘れることはないだろう。その頃の私は実は精神的に非常に不安定だったと思う。そして誰よりも死の恐怖を感じていた。私はそのー月前、癌で母を亡くしたばかりだったからだ。御遺体を前にして平常心を保てるだろうか、きちんと実習を行えるか、緊張と不安でいっぱいだった。実習室の独特の静けさとはうらはらに辺りに聞こえるほどの心臓の音のように思えた。

いざ御遺体と向かい合いメスをいれる時になって、その方とそのご家族の尊い行為に気がついた。自分自身を次々と解剖されるのを想像するつらさは言うまでもなく、ご遺族が大切な家族を亡くし御遺体となった後でもそのいとおしさは変わることのないことを私は知っている。緊張などしている場合ではない。多くの人の好意で勉強させていただいてるのだと言う自覚が必要なのだ。そう感じた

 

 

 

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