髪取り上げてけわい化粧をいたされて色良き衣服にきかやいで しずしずいでるみ姿を ものによくよく例えらば 春の花が はつらつや 秋月なら十三夜 際にも際たる風情にて おしうをみがいて出来たり
長右衛門見るやに驚いて
『ヤア はま はま はまと屋にやまむら屋 ほんにまー殿様はお見立てがお上手だ 常陸小萩 常陸小萩とおっしゃったのも少しも無理ではない ごもっとも 勝手元をはいずり回り なべすじだらけになっていたところと またそれあのように つくりたっているものとは ものに例えてみようなら まず口上によって 下駄に焼き味噌 猫に小判 お月様にスッポンといおうか イヤアモウ 提灯に釣鐘 八万太郎に万太郎 仏の神に鼻紙 ちりっペたにほうっペた むこうずねに義経お寺にどてら 程の間違いである お殿様は さておき この長右衛門がちょっとお毒味をやってみたい イヤ モウ毒味お味見どころではない 奥に控えておる平判官光重公がさぞお待ちかねにましまさ サア コリャ コリャ 小萩や おれが ちょっと支度をしてくる間 あれなる襖の越しより チョット覗いてみやしゃれ』