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薩摩派説経節より「小栗判官照手姫 二度対面の段」

 

日頃の行使の是非もなく 小萩は湯殿の方よりも 水間へ方になりぬれば

 

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髪取り上げてけわい化粧をいたされて色良き衣服にきかやいで しずしずいでるみ姿を ものによくよく例えらば 春の花が はつらつや 秋月なら十三夜 際にも際たる風情にて おしうをみがいて出来たり

長右衛門見るやに驚いて

『ヤア はま はま はまと屋にやまむら屋 ほんにまー殿様はお見立てがお上手だ 常陸小萩 常陸小萩とおっしゃったのも少しも無理ではない ごもっとも 勝手元をはいずり回り なべすじだらけになっていたところと またそれあのように つくりたっているものとは ものに例えてみようなら まず口上によって 下駄に焼き味噌  猫に小判 お月様にスッポンといおうか イヤアモウ 提灯に釣鐘 八万太郎に万太郎 仏の神に鼻紙 ちりっペたにほうっペた むこうずねに義経お寺にどてら 程の間違いである お殿様は さておき この長右衛門がちょっとお毒味をやってみたい イヤ モウ毒味お味見どころではない 奥に控えておる平判官光重公がさぞお待ちかねにましまさ サア コリャ コリャ 小萩や おれが ちょっと支度をしてくる間 あれなる襖の越しより チョット覗いてみやしゃれ』

 

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と言いつつ立って 長右衛門 一間の内へかって入りにける

 

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後にも残る姫君は あまたの城郎衆のある中に 我を名添えし お殿様 いかなるお方に候と 襖間よりはるか奥 見るよりはっととびしゃい またさしよりてさし覗き

『ハテ 合点がゆかぬことじゃわい 何時から心の迷いかや 二世とかわせし わが夫に 顔の面差し 年の頃 似たりや似たり花菖蒲 菖蒲にまがううカキツバタ 瓜なら

 

 

 

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