十代田朗・品川茂生・稲葉克己
1. 研究の背景と目的
今夏、海外に出かけた日本人は過去最高の320万人といわれる。運輸省の統計では、昨年日本発の旅行者は1,600万人とされる。ところが、海外からの日本への旅行者は380万人とその4分の1にすぎない。政府はこのアンバランスを改めようと、1995年、「ウエルカムプラン21(訪日観光交流倍増計画)」を策定し、10年後の2005年までに訪日外国人数を700万人に倍増させることを目指して政策展開している。訪日旅行の需要創造のためには、PR戦略等課題は多いが、わが国でもほんの30年足らず前までは、現在と社会的背景には異なる面があるものの、訪日外国人誘致のための熱心な国際観光政策が展開されていたことは案外忘れられている。
江戸末期の開国以来、政府はしばらくの間、外国人の観光への対応について国のなすべき独立した政策として意識し取扱ってはいなかったが、その後、徐々に外国人が訪日することの意義や効果が認識され始め、政策の必要性が強く意識され、昭和初期に至り、国際観光政策が国政として明確に位置づけられた。以後幾つかの曲折を経て、わが国の国際観光政策は展開されてきた。
この展開の歴史を政策の流れとして明らかにすることは、「ウエルカムプラン21」の基で訪日外国人数倍増のための今後の政策や整備のあり方を考える際の基本認識及び教訓として重要であると考える。また、現在の途上国の国際観光政策に対しても参考となりうるものと思われる。しかしながら、これまで断片的、部分的な先行研究はあるものの、その全体を通史として取扱ったものはない。
そこで本研究では、先行研究の蓄積もふまえて、明治以降の日本の国際観光政策の変遷の全体像を描き出すことを狙いとして、具体的には、以下のことを明らかにすることを目的とする。
? 明治以降の国際観光政策は、政策及びその実行が、どのように特徴づけられる時代の連続として把握できるのか。
? 政策及び実行は、国土の上でどのような地区やルートの指定、選定、整備計画等のフィジカルプランとしてなされてきたのか。
? 政策のソフト面、すなわち海外宣伝、接遇、啓蒙等の施策はどのようになされてきたのか。
特に、?は、いままでほとんどなされていなかった観点からの研究である。観光を今後のわが国の基幹産業の一つとみなし、国土計画と一体化した観光政策が要求され