日本財団 図書館


は輸出自主規制策をとらざるを得なくなり、輸出市場を防衛する目的から現地生産に転換していった。

このようにして設立された海外拠点に対し、親会社は経営資源を一方向的に移転する(吉原、1988:42)。親会社は、生産設備、ソフトな生産技術、組織風土に代表される日本的生産システムを海外に移転する。日本と共通のノウハウを利用し、そのまま使用できない部分は現地の状況に合うよう調整や変更を加える。企業内における日本的制度と慣行では、内部昇進、年功賃金、全人格的評価は修正的に実施しているが、新卒採用、幅広い内部移動などは実施していない(吉原、1996:50;林、1985:79)。

つまり、日本の製造企業の海外進出は外圧を受けた現地生産の開始であり、確保した輸出市場を守ろうとする受身的、防衛的性格を特徴としている。そして、現地の経営は日本的経営と現地的経営をミックスしたものになっている。

 

3. 旅行企業と製造企業の海外進出の比較分析

旅行企業と製造企業の海外進出を比較すると4つの点で違いが指摘できる。

第1は、市場である。製造企業は輸出による市場の拡大、安価な経営資源の利用、現地化の要請を機に海外進出を図った。それに対し、旅行企業の海外進出はサービスの充実、日本企業の海外進出に伴い発生するビジネス・チャンスの獲得を目的としている。製造企業は現地市場に積極的に働きかけたが、旅行企業は海外においても日本人・日系人・日系企業をターゲットとし、非日本人市場の開拓に積極的ではない。旅行企業の海外進出は、旅行者や日本企業を追いかけた追随的な海外進出である。

第2は、進出地域である。製造企業は、間接輸出から自社の輸出部門による直接輸出、発展途上国での現地生産、さらに先進国での現地生産へと移行してきた。一方、旅行企業は、先進国での在外事務所設立から発展途上国での観光事業開始へと移行してきた。日本人旅行者の渡航先や日本企業の進出先であるヨーロッパゃアメリカに進出し、その後、観光地開発を必要とするオセアニアや東南アジアへと進出した。このような進出は、製造企業の発展途上国から先進国へと移行した動きとは対照的である。

第3は、現地経営のスタイルである。日本企業の海外拠点では、製造業・非製造業を問わず、経営幹部は日本からの出向社員が占める。しかし、製造企業に比べ、旅行企業では日本人と日系人の従業員が多い。全従業員に占める出向社員の割合を比較すると、製造企業では5%に満たない拠点が大半を占めるが、旅行企業では通常15〜20%、多い場合には100%を出向社員が占める*6。フロントラインについてみると、製造企業では基本的に現地人を採用するのに対し、旅行企業では日本人や日系人を採用する。通常20〜30%、多いときには60%以上を日系人が占める。特に旅行企業のフロントラインでは、日本語能力が必須条件である。製造企業では日本語能力は

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION