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第3回 観光に関する学術研究論文の審査を終えて

 

審査委員長東京大学教授

西村 幸夫

 

本年度3回目を迎えた本学術研究論文募集は、昨年の20件を上回る27件の応募があり、いずれも力作で、投稿論文の質の高さは目を見張るものがあった。審査にあたっては審査員全員の投票により、詳細に検討する論文をまず約半数の論文に絞った。この段階でやむなく落選となった論文については、1編ずつ強力な支持者がいないか慎重に確認作業を行った。残った半数の論文については1編ずつ詳細に長所と短所を議論し、研究助成金を交付するに値するかどうか慎重に検討した。

一席に入賞した今西珠美論文は、日本の旅行企業の海外進出にあたっての行動パターンの特色を製造企業との比較によって論じるという大変ユニークなもので、分析の手法も堅実で、全体に論旨の破綻がまったくなく、審査員全員の高い支持を得た。

二席の1に入賞した十代田朗氏ほか3名の論文は日本の国際観光政策の変遷を開国時から1970年の大阪万博まで概観するというスケールの大きなもので、時代区分も適切で、独創的な分析も多く今西論文と一席を争ったが惜しくも二席となった。今後の詳細な研究発表によってさらに新事実が明らかにされることを期待したい。

二席の2となった西村幸子論文は、エコツーリズムの全貌を過不足なく論じ、さらにマスツーリズムとの対比をおこなったもので、論文の完成度の高さ、文献研究の確かさが高く評価された。

本来二席論文は2件の予定であったが、上記2論文と比較してまったく遜色のない論文として、田村武論文が推され、検討の結果二席の3として顕彰することに決まった。田村論文はナイト・サファリに見られる動物園の夜間開園という事象を採り上げて、動物園の意味するものの今日における変化を読みとるという大変刺激的な視点で論じられたもので、そのユニークな着眼点に高い評価が与えられた。

奨励賞は本年度は枠を拡大して4件に与えられる予定であったが、対象となった論文がさらに上位の賞を受賞したために、結果的に2編の論文に与えられた。中野文彦論文は、草津と湯沢のリゾート地をマスタープランの観点から比較したもの、菊地直樹論文は、高知県大方町の砂浜美術博物館を論じた事例研究で、いずれも現場に密着した研究の視点に好感が寄せられた。

本年度の応募論文は総体に完成度が高く、惜しくも選に漏れた論文にも見るべきものが多かった。計画条件モデルという新しいモデルでリゾート開発ブームを斬った論文、パッケージツアーの安全確保義務に関する法律論を展開した論文、ベトナム・ホイアンの観光を論じたもの、添乗員の将来像に関する論考、アジアからの訪日観光に関する分析など、審査員の議論が伯仲した論文が多かった。今後とも地道に精進を続けられんことを、そしてそうした努力が結実して、将来の輝かしい栄冠を獲得されんことを祈念せざるをえない。

 

 

 

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