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は じ め に

 

アーテイスト同士が交流できる場として

東京国際舞台芸術フェスティバル’97では、コミュニケーション・プログラムとして「アーティスト・ミーツ・アーティスト」を実施した。コミュニケーション・プログラムとは、今回初めて行われた試みで、目的、対象を絞ったレクチヤー、フォーラムなどの一連のシリーズである。その中でこの「アーティスト・ミーツ・アーティスト」は、文字通りアーティストを対象にしたものである。前回95年のフェスティバルの後に、「参加者同士が交流できる機会が欲しい」という要望が事務局に寄せられたが、のんびりと時間を使うことができるリゾートのフェスティバルとは違い、それぞれが日常を引きずっている都市でのフェステイバルでは、時間、場所の制約があり、実現することは難しいと思われた。それでも、フェスティバルという仕掛けを利用して、カンパニーや劇場という個々のグループの単位を越えたコミュニケーションの場を何とか提供できないかと思ったのは、それがアーティストにとって知的な刺激になり、ひいては作品の質の向上につながると考えたからである。

個人と個人が出会うところから、新しいものが生まれる

昨今では、劇団公演以外のプロデュース公演、異なるジャンルのアーティストとのコラボレーション、またはいくつかの国のアーティストの共同作業など、創り手が団体としてでなく、個人として才能が評価される機会が増えてきている。けれども、作品の創造は製品の製造とはちがって、一番いい部品を集めれば一番いいものができるという訳ではない。アーティストが、互いをよく知り、才能を尊敬し合うことでしか、アーティスティックな共同作業は成立しえない。「個人と個人が出会うところから、新しいものが生まれる」というコンセプトは、この共同作業の前提となる互いを知る機会を作ることを目指しているのである。

さらに欲張って、アーティストだけなく、作品を支える周囲をも巻き込んで、アーテイスティックな質についての議論が活発になればよいとも考えていた。助成財団を始めとする作品を外から支えている人々も、創り手に負けず劣らず作品の質の向上について心を砕いていることを、アーティストに知って欲しかったのである。一つの作品が成立するために多くの人間を必要とする舞台芸術は、コミュニケーションの産物である。ささやかな試みではあるが、「アーティスト・ミーツ・アーティスト」が、今後も引き続きコミュニケーションの場として、役に立てれば幸いである。

後藤美紀子

 

 

 

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