は じ め に
東京国際舞台芸術フェスティバル'97 (TIF'97) は、世界の芸術フェスティバル・ネットワークと連動し、アジア太平洋地域の舞台芸術交流の拠点となるとともに、国内外の舞台芸術の活性化と、新しい才能の発見など将来に向けての創造活動の振興をはかることを目的とし、1997(平成9)年9月20日〜10月31日の六週間にわたって開催された。
国際フェスティバルとは何か、という問いに対する答えは、時代によって大きく変化してきている。
東京国際舞台芸術フェスティバルは、実は東京だけで成り立っているのではない。海外からいくつかの芸術団体を招聘することがそのまま国際フェスティバルであることを保証する(かつてはそういう時代もあった)のではなく、いまやフェスティバルの存在自体が世界から注目されることがなければ国際フェスティバルの名に値するとは言えまい。東京国際舞台芸術フェスティバルは、その意味において単独(スタンド・アローン)ではなく世界のフェスティバル・ネットワークを前提として存在している。
舞台芸術交流のために世界の芸術フェスティバルが果たしている役割の大きさは計り知れないものがある。1997年9月には、韓国・ソウルでITI-UNESCOが主催する世界演劇祭(THEATRE OF NATIONS)がアジアでは初めて開催され世界中から大勢の舞台人が集結した。このように、芸術フェスティバルは、非日常を作り出す仕掛けであるとともに、世界的な舞台芸術交流を定例化恒常化するための日常的な機構としても機能する。芸術フェスティバルが舞台芸術の創造・交流の核になっているというのは、すでに欧米だけでなくアジア太平洋地域の現実でもある
このフェスティバルの前身である「東京国際演劇祭」の第一回開催から丸十年の時が経過した。この間、東京の、あるいは日本の舞台芸術状況は大きく変貌した。(言うまでもなく世界の舞台芸術状況も同じく変貌している。) 芸術フェスティバルという存在が文化振興のための社会的な装置としての認知をいまだ得られていなかった初期の時代から、本フェスティバルは常に都市型フェスティバルの新しい形態を模索してきたと言えよう。
本報告では、この十年間の取り組みを踏まえて、TIF'97をさまざまな角度から具体的に検証し、併せて今後のフェスティバルの展開についてのヴィジョンを提示し、21世紀を目前に控えた現在から将来へと新たな一歩を路み出すための指針としたい。