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これによれば集落再編成の原理は、結びつきの深いいくつかの集落のうち社会的諸機能の優越する集落をベースに統合し再編成するというもので、再編成することで足りているもの足らざるものを互いに補い合うのを目的としている。当然そこでは各集落生活圏ごとに生活機能をチェックし、その過不足を、交流のある集落を統合、再編成することで1集落では賄い切れなくなった生活機能の充足をはかるということになる。具体的には「距離的に近い集落の交通網を整備し、優越する集落を中心とした生活基盤、社会・文化における生活の単位をつくり出す」というものであった。

集落再編成論は複数の集落を中核的集落を中心に統合再編成し新しい行政単位とするもので、そこにあるのは機能主義優先の思想といってよい。しかし、集落にはそれぞれ長年培われた生活があり伝統が存するのであって、それを機能主義で割り切れるものではないであろう。人間関係は足して二で割る式の便宜論で片付くものではない。このたびの調査で村長は、集落再編成論も村議会でも問題にされ、公営住宅を建てるといった意見も出されたが、住みなれた所を離れがたく思う気持ちを無視しがたい、ましてや強制収容はできない。2週間に1回ホームヘルパーを派遣してサービスしている、など話され、集落の再編成には批判的な御意見であったが、もっともなことだと思う。集落の統合再編成(論)は、基礎集落そのものが実質を失い、空洞化しはじめている状況の下では(その度合いが軽い段階ならばともかく)、欠陥要素の補完・解消というより、むしろ拡大再生産されるだけで、機能主義の立場から考えても有効とは思えない。ことに当村のように個々の集落が分散し、距離的にも離れている場合はなおさらである。

ここで調査の事例はわずかであるが、タイプの異なる3つの集落を取り上げ、集落の置かれている現状の一端を見ておきたい。

1つは西谷地区―前述のように当村3地区のうちもっとも広く、したがってもっも濃厚に過疎化の要素をもっている―猪伏。ここは平家落人伝説があるように柳谷村でもっとも古い歴史をもつと伝える。昭和25年には9戸・40人を数えた。私の祖父母の頃で、いちばん多かった時分である。それがいまでは4戸・6人。そのうち2戸は夫婦のうち一方の欠けた男か女の一人住いである(ともに75歳)。すでに戸籍を松山に移したものもいる。そう語ってくれたのは集落の世話係(嘱託委員)の古山嘉一さん(69歳)で、子息は松山にすんでいる。私がいなくなったらこの集落は立ち行かなくなるであろう。そういって古谷さんは慨嘆した。

この猪伏と対照的な集落が、次に訪れた高野である。ここはわずかながら米作(自給用)も行われている。この集落では昔から長男だけが村に残り、次男以下は村を出るしきたりがあった。こうした慣習は生活条件の厳しかった江戸時代には人口の抑制策

 

 

 

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