出力し、補正したイコライザーをON/OFFし補正前、補正後の音を聞き比べる。補正前の音は、ウーファーの口径が少し小さいためにやや低音が不足しているように聞こえ、また高音域では、そのユニットの性能のせいか5〜20Khzではのびが感じられない。この間スペアナの表示も低音域と高音域の落ちた山なりのようになっていた。それを補正すると足りないと感じていた帯域が十分に感じられ、スペアナの表示もおおよそフラットな状態を示した。次に、そのモニターからマイクロフォンSM58の音を出力し、ハウリングポイントをスペアナを使って確認する。ハウリングは通常サイン波に近い単一周波数がスピーカーとマイクの間をループすることで起こるので、ハウリングを起こした場合には、スペアナはその周波数のみを表示する。そのポイントをカットしてやれば、その帯域のハウリングを抑えることができる。ただし、そのポイントをカットする場合にはただむやみにイコライジングしたのでは音楽的な再生には程遠くなってしまうので、やはり最終的には自分の耳に頼ることになるだろう。また、どんな状況においてもフラットな特性がよいとは限らないので、SRにおいてはその都度、適したサウンドを作り出す必要があるであろう。
催し物の内容に適した音場の制御について
先程も述べたように催し物は、主催者の意向により様々な場所で行われ、その目的に応じた音場を作りたい。例を上げると、駅の構内ではふくよかな低音など必要もなく、また映画館などで中音域だけが張り出しているようでは迫力も何もあったものではない。
研究者の間では、音を定量化することが試みられている。中でもオランダで発案されたAlcons法は子音明瞭度損失と呼ばれ、それは日本語にはあまり適用しないが、子音が正確に聞き取れることが明瞭度の決定因子であることにもとづくものである。またAI法は、電話回線の評価用として考案された。だが全てのシステム、現場に満足できるものはなく、先に述べたようにやはり最終的にはオペレーターの耳に頼らざるを得ない。
人間の聴覚はマイクロフォンのように一定の感度、特性を持っているわけではない。耳から入ってきた音は脳によりコントロールされて聞きたい音だけを選択したりするため実にあやふやなものなのである。その様々な作用には、マスキング効果やハース効果と呼ばれるものがある。
マスキング効果とは、たとえば静かな場所では針が落ちるような小さな音でも聞こえるが、コンサート会場では隣の人の話が聞こえなかったりする。またハース効果とは、たとえば、ステレオスピーカーの片方の音を少し遅らせると、もう片方のスピーカーのほうに音像が片寄って聞こえると言うような効果のことである。この場合、あまりに音を遅らせすぎると不自然になってしまうので注意が必要である。このホールでもサイドスピーカーとプロセニアムスピーカーを使用した場合、プロセニアムスピーカーの音を若干遅らせることで音像をステージのほうに寄せて定位させることができる。
PA現場での電源事情
音響機器にとって必要不可欠なものが電源である。近年大容量化してきたパワーアンプを複数台駆動させるのであるから、かなりの容量を必要とすることが多い。しかしこの電源に不都合があることが多く、特に照明の調光装置から発生するSCRノイズは音として現われるので注意が必要である。また、日本の電源コンセントは普通2Pの平行型コンセントで海外のようにアースラインがついていない。現在の音響機器は海外製品が多く、そのコンセントはアースコンタクトがついた3P型になっているのだが、アースコンタクトを折って使用することは望ましくない。
仮設電源の場合は、単相3線からの引き込みになることが多い。その場合単相3線から平行コンセント、もしくは30A-A型、C型に変換する電源盤が必要であるが、この際に単相3線のニュートラルに対してバランス良く容量をとることが必要で、その場合の計測にはクランプテスターが便利である。いずれにしても電源をとる場合だけでなく、現場には簡単なテスターを持ち込むべきである。