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どんなに叱られるか、どんなにひどく殴られるかわからんから、おじさんのとこへ来たのに…」と恨めし気に泣き出しました。私は、恵ちゃんそうじゃないんじゃ、あんたは本当にいい子になろう、真人間になろうと思うて今日まで来たんじやろう。そんならお父さんに言わにゃあいけん。そりやあ怒られるじゃろう、殴られるかも知れん、蹴飛ばされるかもしれん。それでもなあ、それほど叱ってくれるお父さんなら、そのお父さんが、きっと恵ちゃんを助けてくれる。救うてくれる。元気を出して言うてみなさい…。そうしたら道が開けるよ、おじさんが黙って貸してあげるよりええ道が開けるよ、そうしなさい。」そう話した後、しばらく黙ったまま時間は過ぎていきました。ふと顔をあげた彼女が心もとなげに、「おじさんやっぱりそうせにゃあいけん?」と言います。私は言いました。「そうせにゃあいけん、そうしなさい……お父さんやお母さんは恵ちゃんが可愛ゆうてならんのぞ。おじさんのお願いじゃ。お父さんに話してみてごらん…。」そう言って彼女の背中を押すように玄関を、送り出しました。帰って行く彼女を、どうするじゃろうかと切ない思いで見送りました。その翌朝彼女はやってきました。「おじさん!…」言ったまま突っ伏して声を上げて泣きました。いつもはきれいな可愛い顔が、叩かれたのか泣き明かしたのか少しハレて見えました。泣きじゃくりながら「おじさん、お父さんがお金を出してやる言うてくれた。お父さんが一緒に行ってやる言うてくれた。おじさん!…」と言うて再び泣き入りました。そこへ父親がやって来まして「有り難うございました。性根に入りました。本当に救われました。」そう言って暫くは頭を上げようとはしませんでした。親と子の絆を取り戻して、晴ればれとした二人の帰って行く姿を見送りながら、私の心は久しぶりに豊かに和んでいました。今や、親も子も何かを失っているように思えてなりません。けれども、心ある若い人達は何かを一心に探しています。それが何かは解らないけれども、そんな場面に出会うたびに、「年寄りの冷水」のような経験だけれども、話してあげられたらなあ、と思うのです。ご近所の名前も知らないお年寄りの方から、はっとする

 

 

 

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