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紀伊國献三

 

ることは大変な間違いで、施設ケアの充実と利用が十分でなければ在宅ケアは成り立ちません。まず施設ケアを確立させることが先決なのです。

いまの在宅ケアの多くは、痴呆高齢者の徘徊などの問題行動や世間体から、家に鍵をかけて、介護者と2人きりで閉じこもっているのが現状です。まるで座敷牢の生活のようであることを認識しなければなりません。これは痴呆高齢者の問題だけではなく、一般高齢者の在宅ケアも似たり寄ったりの状態です。高齢者にとって、閉じこもりの生活は痴呆症状の発症、助長へとつながります。それを防ぐためにも、デイケアなどを積極的に利用して他人から多くの刺激を受け続けることが必要で、またこの間に介護する家族は一息ついてリフレッシュできるのです。

そして、ケアだけでなく、それを支える基盤として医療をないがしろにはできません。痴呆高齢者は精神科専門治療と福祉的ケアによって支える必要があります。また、痴呆高齢者問題はその他の高齢者問題とは大きく違うものであるにもかかわらず、老人保健施設は、設立を申請すると、そのほとんどが定員の2割程度の痴呆高齢者の入所枠を付帯されます。これはとてもナンセンスなことで、まさにお役所的といえるでしょう。また、現状として、趣旨の違う中間施設である老人保健施設で扱うしか方法がないとしても、利用料に対する措置が考えられるべきなのです。

さらに、われわれの施設に入所あるいは通所される前に、いろいろな施設でケアを受けている方が多いのですが、そこでどのようなサービスを受けていたかがわからないという現実があります。また、デイサービスとデイケアを交互に受けている方は、その双方でどのように過ごしているかがわからない。施設ケアと在宅ケアの情報がとぎれて連携が取れていないのです。この弊害を解決するためにも、連携を取り持つ人間の存在が必要になってきています。今後のケアマネージャーが単に介護保険の割り振り判定だけに終わらず、スーパーバイザーとしての役割を担ってもらえることを期待しています。

もう1つの大きな問題は、介護する家族に対しての精神的な支援が行われていないことです。肉親が痴呆になった場合、家族は戸惑い、不安になり、対応に苦慮します。周囲に悟られないよう、問題を起こさないように気を配りますが、痴呆はよくなるどころかますますその本性をあらわにし、家族は介護の疲れといら立ち、不安に追い詰められていきます。一番苦しんでいるのは介護する家族かもしれません。思い余っての無理心中も珍しいことではないのです。現状では、介護者の精神的な支援としての在宅ケアメニューはまったく考えられていないのです。

また、判断能力の低下した高齢者をサポートするシステムが必要ではありますが、独り暮らしの痴呆高齢者を危険から保護するためには、財産保護の意味だけではなく、身上監護の面からも、成年者後見法の早期成立と整備が必須となります。法務省民事局では、成年後見問題研究会が設置され、法制審議会民生部会で調査報告書が出されました。これにより、成年後見小委員会が設置され、本格的な審議が開始されました。今後の早急な法による整備が望まれます。

数年前、保健婦さんと一緒に何人かの在宅の痴呆高齢者を訪問したときのことです。最初のお宅では、痴呆のおばあさんが、日の当たる縁側でにこにこされて、介護しているお嫁さんと一緒に待っていました。そのおばあさんは私たちに丁寧に挨拶され、何度も座布団を勧めてくれました。その後訪問したもう1軒のお宅では、痴呆のお年寄りが薄暗い台所の柱にひもで腰をつながれ、ビニール製のポンチョのようなものを着せられていました。

 

 

 

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