日本財団 図書館


つくられるのです。あの老人は痴呆だ、なにをいっても分からないといった先入観でその老人に対面すると、最初から両者の間に望ましいコミュニケーションが形成されません。それは老人を介護する者の側に問題があるからです。老人との間によいコミュニケーションをつくるための努力が介護人になければなりません。痴呆性老人と音楽療法士との間のコミュニケーションは、音楽というメディアがよい条件を提供することで形成されるものと思います。

 

入院または入所することによる老人の一過性痴呆

 

このことは医療従事者としての医師や看護婦、さらに介護福祉士、ヘルパー、その他ボランティアにも了解されなくてはならない内容のものです。

高齢者が手術や急性疾患を病んで、急に入院したりする場合には、以下のことがしばしば生じます。

手術のための麻酔にかかった老人が、術後の特別監視病棟や術後の回復者用個室に入室させられ、面会遮断にされ、酸素吸入や点滴輸液下に安静を強いられると、その老人には一過性に妄想が生じ、ベッドから突然起き出す行動をとることが少なくありません。麻酔後の老人患者はできる限り本人を刺激して覚醒させ、看護婦などが話し相手になることが必要です。患者を1人にしておくことをできる限り少なくする処置をとらないで、まったく異なる環境に突然監禁された状況下の老人患者は、場所や人への指南力を失うことが少なくありません。外科手術でなくても、心筋梗塞患者の老人などがCCU(監視病棟)に入院させられた場合は、患者が輸液や酸素吸入などの処置を四六時中受けることによって同様なことが起こります。

このような物理的環境や人的環境の突然の変化に際して、老人が一見痴呆と思われる症状を示しても、これは本当の痴呆ではなく、一過性の不適応症状と解して、よい環境に早く戻すことがたいせつです。

在宅から特別養護老人ホームに移された老人にも上記のことが生じることを医療従事者はよく心得るべきです。入院または入所した老人に痴呆患者のレッテルを最初から貼り付けて、看護婦同士の会話などに、あの老人は「デメッテル」などの表現で患者を扱うと、その看護婦のその老人に対する態度は、思いやりのある気持ちに欠け、看護婦は冷たい視線を老人に投げ掛けることになります。またある場合は、老人を子ども扱いにする言動が看護婦や介護者にみられることがよくありますが、これは慎むべきです。

以上のようなさまざまな点から、見かけ上痴呆の症状のある老人を入所または入院させた場合には、その老人をどのようにケアすべきか、また在宅老人のケアにはどのような配慮や行動がなくてはならないかということを私はここで強調したいと思います。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION